「死神の浮力」を買ったので、前作の「死神の精度」を再読しました。

 

伊坂幸太郎さんは、デビュー当時はミステリ作家の色合いが濃くて、この「死神の精度」も含め、初期の10作くらいはずっと追いかけていました。

 

しかし、「魔王」や「砂漠」あたりからミステリ要素が薄れてきて、いつしか伊坂作品を追っかけなくなっていました。

 

「死神の精度」の再読は、ほぼ10年ぶりなので、死神を主人公にした面白く上質なミステリだったという印象しか残っていないのですが、さて。

 

CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。

 

一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。 クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。 (文庫裏紹介文)

 

『死神の精度』、『死神と藤田』、『吹雪に死神』、『恋愛で死神』、『旅路を死神』、『死神対老女』という6話の連作短編集です。

 

これらはそれぞれ、、本格ミステリ、ロード・ストーリー、恋愛小説、ハードボイルド、現代版シンデレラ・ストーリーという実にバラエティに富んだ短編で楽しめます。

 

興味を削ぐので、対応関係は言いません。 でも、タイトルである程度わかっちゃうか。

 

変化に富んだストーリーと、死神・千葉のキャラクターがとぼけた味を出していて読んでいて楽しい。 しかし、それぞれの短編の主人公は結局、死を迎える(例外はある)ことになるので、ラストでは切ないムードがただよいます。

 

そんな連作のラストを飾るのが『死神対老女』。 いくつかの伏線を回収して迎える連作全体のエンディングが素晴らしいです。

 

今回、再読してみて、もちろん緻密なストーリー構成や伏線の回収というようなミステリ要素も楽しめたのですが、それぞれの主人公の人生に対する向き合い方が印象に残りました。

 

目前の死によって区切られているだけに、それぞれの人生の中での精一杯の行動や判断が浮き彫りになります。 そして、それらはラストの老女が到達した境地につながっています。

 

単なるミステリというだけでなく、人生について、死について考えさせられ、何ともいえない深い余韻を残す小説でした。 「死神の浮力」が楽しみ。 お勧めです。