――2014年8月25日投稿―――2024年4月23日更新――

 

アヴェ・マリアは、ラテン語で”こんにちは、マリア”とか、”おめでとう、マリア”という意味があります。 また、この言葉で始まるキリスト教の聖母マリアへお祈りは、さまざまな作曲家によってメロディが付けられています。

 

シューベルト、グノー(バッハ)、カッチーニのものが、世界三大アヴェ・マリアと言われていますが、中でもシューベルトのアヴェ・マリアが一番有名でしょうね。

 

この曲は、もともと宗教曲として作曲されたものではなく、イギリスの歴史小説家、ウォルター・スコットの『湖上の美人』という韻文小説の中の詩にシューベルトが曲を付けたものの一つです。

 

したがって、この曲の正式名称は「シューベルトのアヴェ・マリア」ではなく、歌曲集『湖上の美人』の中の6曲目『エレンの歌第3番』ということになりますね。

 

エレンとは韻文小説に出てくるヒロインの名前。 彼女は逆臣の汚名をきせられた父とともに、追っ手をのがれてスコットランドの高地の洞窟に落ちのびます。 そして、せっぱつまった逆境の中でエレンがマリア様の加護を求めて歌うのがこの曲なのです。

 

ハープを模すピアノ伴奏に乗って、優しく静かに歌われるメロディは崇高な美しさを持っていますが、上のような背景を知って聴くと、この曲はただ優しく美しいだけの曲ではなく、その中に生死をかけた祈りも聴き取れるかもしれません。

 

超有名曲なだけに色んな歌手が歌っています。

 

20世紀最高のソプラノ歌手といわれたマリア・カラス

 

ジェシー・ノーマンのソプラノ

 

スミ・ジョーのソプラノ(2分くらいから) → 

 

エリザベート・クルマンのメゾ・ソプラノ。オーケストラの伴奏と合唱付き。

 

ポップス系ではセリーヌ・ディオン → 

 

このほかyoutubeで検索すると、アルトや男声が歌ったものも見つかりますが、この曲はやはりソプラノの歌声で聴きたいですね。

 

 

バーバラ・ボニー(ソプラノ)

バーバラ・ボニーの清純で透明感がある歌声がこの曲にはピタリとはまります。 しかも、曲の背景に沿っているような緊張感も漂っていて、崇高な祈りの音楽として聴くことができる名唱だと思います。 「アヴェ・マリア」以外にも「野ばら」や「ます」などシューベルトの代表的歌曲が17曲収録されています。


 

映画では、題名もそのものずばりの「アヴェ・マリア」という1938年のハリウッド映画があって、前回「オーケストラの少女」で紹介したディアナ・ダービンが主演しています。 ラストで彼女の歌うシーンがあったのでリンクしておきますね。

        

1940年のディズニー映画「ファンタジア」でも使われています。 「ファンタジア」は、オーケストラによるクラシック音楽をバックにした8編(8曲)の物語集で、台詞や物語説明はなく、音楽とアニメーションでストーリーが展開していくという画期的な作品でした。

        

7曲目の「禿山の一夜」のラストの一音が、ラストの「アヴェ・マリア」の最初の一音となり、闇から光へと繋がっていく演出は素晴らしいものでした。

 

日本で一番有名なのは、アニメ「フランダースの犬」のラストシーンかも知れません。 疲れきって教会にやって来た少年ネロが、召される直前にやっと見ることのできたルーベンスの絵。

 

ここで流れるのが「アヴェ・マリア」です。 ネロの「ああマリア様、もう僕はこれで何もいりません」というセリフが涙を誘いましたね。