美亜へ贈る真珠―梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇 (ハヤカワ文庫JA)/梶尾 真治
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タイムトラベルなど、時間をテーマしたSFが好きで、このブログでも『マイナス・ゼロ 』、『タイム・リープ 』、『スキップ 』、『蒲生邸事件 』、『果てしなき流れの果てに 』 などを紹介してきました。
     
時間テーマというのは、他のSFテーマ、たとえば宇宙や超能力やロボットなどに比べて、一つの特徴があります。 それは・・・・切ない話になりやすい(相性がいい)ということ。 上記の作品も切ない話が多いですよね。
    
そして、時間テーマで切ない話ならこの人という作家が、梶尾真治さんです。 『黄泉がえり』の作者としても有名ですが、1971年に『美亜へ贈る真珠』でデビュー以来、たくさんの時間テーマのSFを執筆しています。
    
この本は、タイトルにもあるように梶尾さんのSF短編のうち、ロマンチックな傑作を7編セレクトした作品集で、特に下記の2作は時間テーマの名作です。
     
『美亜へ贈る真珠』
「航時機」と呼ばれる、一種のタイムマシン。 航時機の中の1秒は、外界の1日分に相当します。 未来への旅人として航時機に乗り込んだ男性・アキを、毎日訪れて見つめている女性・美亜。 しかし、かつて恋人だった彼らの時間は二度と共有できないのです。 美しくも切ないラストを持つ作品で、このテーマの古典になったと言ってもいいでしょう。
     
『時尼に関する覚え書』
3歳の時に初老の女性に出会った遠い記憶を持っている保仁。 その人は優しくそして寂しそうでした。 保仁が小学校2年の時にその人と再会してからは、年に1回くらいのペースで現れるのですが、不思議なことに少しずつ若返っているように見えるのです・・・・。 これも時間と恋愛をテーマにした傑作。 ロジカルな面白さでは、これが一番です。
   
他の、『詩帆が去る夏』、『梨湖という虚像』、『玲子の箱宇宙』、『”ヒト”はかつて尼那を・・・』、『江里の”時”の時』も、それぞれ抒情的でロマンチックな好短編。 すべて女性の名前を織り込んだものを集めているのも、統一感があっていいですね。
     
梶尾さんの筆致は、ことさらに切なさを強調するようなところがなく、どちらかというと硬質で落ち着いたもの。 それがなおさら心に染み入ります。
     
SFとしても面白いですが、切ないラブ・ストーリーがお好きな人にお勧め。