読書: 米澤穂信 「儚い羊たちの祝宴」 | 読書とクラシック音楽の日々
- 儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)/米澤 穂信
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- 米澤穂信さんは1978年生まれの推理作家で、「古典部シリーズ」や「小市民シリーズ」など、主人公の高校生が日常の謎に挑む青春ミステリを得意としています。
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- しかし米澤さんの描く世界は、これらの青春ミステリであっても、爽やかさや前向きな未来ではなく、青春が内包する苦さや、ざらっとした後味の悪さが特徴的でした。 ノンシリーズの「ボトルネック」などは、その後味の悪ささが極限のダークサイドまでいっちゃった小説でした。
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- この「儚い羊たちの祝宴」は、装丁からしてダークサイドの雰囲気が漂っています。 まあ、文庫の裏書に「米澤流暗黒ミステリの真骨頂」とはっきり書かれているんですが。
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- 昭和初期くらいでしょうか。 かなり古い時代背景の資産家や旧家を舞台に、その家の子女や使用人など、女性の一人称で語られる5編の短編小説です。 「バベルの会」という読書サークルが各編に共通して現れ、そういう意味では連作ミステリとも言えます。
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- これまでの米澤さんの作品とは語り口がまったく異なり、静謐で上品、文学的な香りすらしています。 米澤さんってこんな文章も書けるんですね。 内容的には、連続殺人なども起こって凄惨なものがありますが、この語り口のために、それが生々しくなく物語の中に溶け込んでしまっています。
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- 《身内に不幸がありまして》 《北の館の罪人 》 《山荘秘聞》
- 《玉野五十鈴の誉れ》 《儚い羊たちの晩餐》
- 各編にミステリーとしての巧緻な仕掛けが施されていますが、それは犯行のトリックというよりも、平穏でまっとうな登場人物の心の奥に潜む狂気、その深淵を覗き込んだときの恐怖や驚きといったものがメインテーマなのでしょう。
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- そして最後の一行が、それらの恐怖や驚きをさらに増幅させるのです。 まあ、帯の宣伝文句のように「真相をひっくり返す最後の一行」とまでは行かないのですが、物語のエッセンスを一行に凝縮する試みは十分成功しています。 その破壊力で言うと《玉野五十鈴の誉れ》が一番でしょうか。
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- 確かにダークサイドの小説であり、決して読後感が良いとはいえませんが、その静謐な語り口と古風な舞台設定のため、まるでお伽噺を読んでいるような不思議な感覚があって、「ボトルネック」のようなどうしようもない後味の悪さはありません。
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- 万人にお勧めというわけにはいきませんが、ミステリー好きならば楽しめる小説だと思います。

