エディプスの恋人 (新潮文庫)/筒井 康隆
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七瀬3部作の最終作です。
  
1作目の「家族八景」で主題となったのは、七瀬の目で見た(テレパシーで読み取った)平凡な家族の裏側のエゴイスティックな心理模様でした。
  
2作目の「七瀬ふたたび」では、様々な超能力者たちの活躍と謎の組織との対決をスリリング描いており、物語の舞台や七瀬の活躍は目覚しくスケールアップしました。
   
そして、この作品では、1作目、2作目からさらに大きなスケールアップが行われます。 七瀬は最後に、全宇宙の森羅万象をすべてその視野におさめる存在と対峙することになるのです。
  
ストーリーはこういう感じです。
    
私立高校の教務課事務員として勤め始めた七瀬は、やがて特異な精神構造を持った1人の男子生徒に気づきます。 ある日、野球部員の打ったボールがその男子生徒に当たりそうになったとき、ボールは空中で割れて粉々になってしまいます。
  
七瀬が男子生徒の周辺を調べていくうち、「彼」の周辺には異常な出来事が何度も起こっており、それはどうやら「彼」を守ろうとする「意思」が起こしている超自然現象らしいことがわかってきます。
  
その「意思」が超能力者のものだとすれば、それは七瀬には想像も出来ないような強大な力を持っていることになります。 そして、「意思」はついに七瀬にも影響を与え始めるのでした・・・・・
  
  
七瀬シリーズを通して読んで、あらためて筒井康隆さんの凄みに触れたような気がします。 1作目で人間の内面を主題にし、2作目では世界を外に広げて超能力者の活躍を描き、そして3作目では宇宙全体のありよう、さらには『自己の存在意義』という形而上的問題にまで到達します。
  
各作品で、まったく別のことを描いているようですが、1作目で書き込まれた七瀬の個性は2作目で生きていますし、2作目の結末は3作目の重要な伏線になっています。
   
これらを計算の上でシリーズを書き始めたとしたら筒井さんは天才ですし、計算せずに途中で強引に関連付けたとしてもやはり筒井さんの才能なしには不可能だったでしょう。
   
ある意味で「宇宙とは?」「人間とは?」というSF小説の究極のテーマを筒井さんなりに回答したものと言えるかもしれません。 筒井版「果てしなき流れの果てに」といっては言いすぎでしょうか?
  
どうせ読むのなら3作通して読んで欲しいと思います。 お勧め。