果しなき流れの果に (ハルキ文庫)/小松 左京
 
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先月の26日、日本を代表するSF作家であった小松左京さんが肺炎のため80歳で亡くなられました。
  
私が中高生のころSF小説を読み漁っていましたが、 星新一さんよりも筒井康隆さんよりも、小松左京さんの小説が好きでした。 彼の主要なSF小説はすべて読み、私のペンネームも「杉下右京+小松左京」から付けました。
  
小松左京さんは、「日本沈没」だけで有名になっているような所がありますが、 それ以外にも「復活の日」、「果てしなき流れの果てに」、「継ぐのは誰か」、「さよならジュピター」など日本SFを代表する長編や膨大な数の短編小説を書き上げています。
  
小松さんは、壮大なスケール感を持つ正統的SF小説が得意ですが、同時に非常に文章のうまい作家であり、リアルな現実の描写の中から非現実ものが立ち上がっていく浮遊感がなんとも言えず好きでした。
  
この「果てしなき流れの果てに」は小松さんの代表作と言うべき小説で、「SFマガジン」が行った「日本SFオールタイムベスト」において第1位を獲得しています。
  
N大理論物理研究所の野々村は、K大の番匠谷教授とともに、中生代の地層から発掘された「永遠に砂が落ち続ける砂時計」の謎を追います。 しかし、野々村や番匠谷、さらには関わった人々が次々と行方不明になったり、死んだりして、砂時計の存在を知っている人間がいなくなってしまいます。
  
一方はるかな時空のかなたでは、未来から過去を干渉し改変しようとする勢力と、その干渉を排除し歴史の流れを管理しようとする勢力が激しい戦いを繰り広げていました。 パラレルワールドも含んだ膨大な時空間の広がりの中で起こる様々な出来事。 ある時空では、太陽の異変によって人類は滅亡の危機に直面し、圧倒的に進んだ異星人に救われることになります。 その中で行われる選別と、高次の存在になるためのテスト。
  
2つの勢力の正体はいったい何なのか? この戦いに巻き込まれた野々村は、もとの時空に戻ってこられるのか?
  
この小説は、1965年の作品。 私が読んだのも30年以上前になります。 そのため、最先端の科学技術をテーマにしたSF小説という性格上、今回の再読で面白く読めるかどうか少し不安でした。
  
しかしこれはまったくの杞憂でした。 十億年もの壮大な時空間をテーマにした物語において、たかだか4、50年の違いはまったく問題にならないということなんでしょう(笑)
  
物語の中には、科学、歴史学、天文学、生物学から哲学的なガジェットまで、小松左京さんの博覧強記が詰め込まれ、クライマックスには、「宇宙とは」、「人類とは」という根源的な問いが現れます。
  
さらに、野々村とその恋人の佐世子の物語がこの壮大なストーリーにうまく組み合わさっていて、読後感も非常に良い小説です。
  
時間と空間をテーマにしたサイエンス・フィクションの1つの到達点だと思います。 お勧め。
  
小松左京さんは、この本のあとがきで、さらに壮大な時空間と宇宙をテーマにした作品の予告をしていますが、「果てしなき流れの果てに」を超える小説を書き上げることはついに出来ませんでした。
  
心からご冥福をお祈りいたします。