ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。 クラシック音楽をまったく聴かない人でも、この曲だけは知っているという超有名曲ですね。

 

冒頭の『ジャジャジャジャーン』という4つの音について、ベートーヴェンが弟子のシントラーに「このように運命は扉をたたく」と言ったことから、「運命」という表題が後年つけられることになりますが、「運命」が一般的になっているのは日本だけで、海外では通用しないそうです。

 

この曲が、なぜクラシック音楽を代表するような有名曲になっているかといえば、やはり音楽としての完成度がずば抜けて高いことが挙げられると思います。

 

ベートーヴェンが38歳の円熟期、傑作の森の真っ只中で作曲されたこの曲は、30分強の演奏時間の中に音楽のすべての要素が凝縮され、無駄な部分がまったく含まれない完璧な芸術作品と言えるでしょう。
 

この曲の骨子となっているのは、冒頭の4つの音符であり、ベートーヴェンはそれまで音楽の主役であった旋律の代わりに、旋律のもとになっている動機(モティーフ)を積み重ねることによって、より緻密で統一感のある交響曲を作りあげたのです。

 

「のだめ」では最終楽章前編で、千秋とルー・マルレ・オケの序曲「1812年」 を聴いてショックを受けた松田が、日本に帰国してハッチャキになってRSオケとの練習を行うシーンで第4楽章が使われています。

 

第1楽章:

冒頭の4音の動機を積み重ね、畳み掛けるような緊迫した進行。 決然としたホルンの響きに先導されて第2主題が弦で美しく歌われます。 再現部に続く楽章の結びの部分の壮大な全合奏は、まさに音楽を聴く興奮を味わえるところです。

 

第2楽章:

最初に弦のやすらぎに満ちた主題が出ますが、次に登場する行進曲調の副主題は、4音の動機の変形になっています。 全曲の中では歌謡的でロマンチックな楽章といえるでしょう。

 

第3楽章:

低弦の不気味な旋律が出た後、ホルンが決然と「動機」に基づく主題を吹奏します。 中間部でチェロとコントラバスの動きのある音楽が演奏されると、主題が戻ってきますが、全く楽器を変えていて弱々しくなっています。 さらに弱音で緊張感を保ったままフィナーレの導入部分となります。

 

第4楽章:

前の楽章から切れ目なしに、先ほどの導入部で溜め込んだエネルギーが一気に爆発して、雄渾な凱歌のような第1主題が現れる展開は、この曲の頂点であり見事です。 曲は「動機」に基づき、さらに力にあふれた第2主題とともに進んで行き、コーダではプレストにテンポを速め、息のつかせぬ勢いで圧倒的な響きのうちに全曲が閉じられます。

 

超有名曲なのでCDは星の数ほどありますが、通常のCD紹介の前に面白いパロディ演奏を紹介します。

 

上海太郎舞踏公司Bの交響曲第5番「朝ごはん」(映像付き) です。

 

これは第1楽章だけですが無茶苦茶面白い。 是非第2楽章以降も作って欲しいですね。

この曲が収録されているCD も発売されていて、これ以外にアイネ・クライネ・ナハトムジークやボレロ、夜の女王のアリアなどのアレンジ替え歌が収録されています。 でも映像があったほうがインパクト強いかな。

 

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」 [Import]/Vienna Philharmonic Orchestra

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ジョージ・セル指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

1969年ザルツブルグ音楽祭のライヴ演奏です。 ライヴで燃えるジョージ・セルらしく、ウィーンフィルと白熱の演奏を繰り広げています。 第1楽章の推進力、第2楽章のスケールの大きなロマン、第3楽章から終楽章へのダイナミックな進行、力感溢れる集中力と輝かしい終結部。 文句なしの超名盤だと思います。

 

ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》&7番/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 クライバー(カルロス)
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カルロス・クライバー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
全曲を早いテンポで一気に駆け抜けるかのような演奏です。 爽快なスピード感。
演奏時間で言うと、カラヤン/ベルリンフィルの1984年盤と似たようなものなのですが、クライバー盤は早いテンポの中に、さらに加速力、疾走力が感じられ、生命力と抜群のリズム感に溢れる演奏はこの人ならではでしょう。

Beethoven ベートーヴェン / 交響曲全集 ガーディナー&オルケストル・レヴォリューシ...
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ジョン・エリオット・ガーディナー指揮/オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク
全集からの1枚。 オリジナル楽器での演奏は、きびきびしていて小気味いい反面、響きがうすくロマンチックな部分を表現しにくいので私はあまり好きではないのですが、この演奏はあまり欠点を感じさせません。 むしろ疾走感のある速いテンポやリズムの歯切れのよさ、クリアーな音色が、新鮮で新しいベートーヴェンを作り出しています。
 
ベートーヴェン:交響曲第5番&第7番/フリッチャイ(フェレンツ)
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フィレンツ・フリッチャイ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
上記3盤に比べると、ぐっとテンポが遅く、重厚な演奏です。 カラヤンが正指揮者になる前のベルリンフィルの暗く分厚い響きが支える、ガッチリしたドイツのベートーヴェンです。 特に第3楽章の低弦の音楽と、終楽章へのブリッジ部分の恐ろしいまでの緊張感、そして終楽章の堂々たる勝利の凱歌。 素晴らしい名演です。

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/第6番「田園」/シュミット=イッセルシュテット(ハンス)
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ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮/ウィーン・フィル
この人のベートーヴェンは、中庸な表現なのであまり目立ちませんが、どれもバランス感覚の見事な、端正な演奏です。 この曲もウィーンフィルの弦の音を生かした美しく、スタイリッシュな演奏。