さよならドビュッシー (宝島社文庫)/中山 七里
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第8回「このミス」大賞受賞作だそうです。 ストーリーはこんな感じ。

 

ピアニストを目指す香月遥は、高校の音楽科に特待生として入学することが決まっていた。 お金に不自由したこともなく、家族から愛されて育った遥の日常はある夜を境に一変する。

 

火事で祖父と従姉妹を亡くし、自身も全身に大火傷を負ったのだ。指も満足に動かせない中、新進気鋭のピアニストである岬洋介のレッスンを受けて、コンクール優勝を目指すが、周囲で次々と不可解なできごとが起こり、ついに殺人事件が発生する。・・・・・・

 

この小説、ミステリーを読みなれた読者が読むと、たぶんかなり早い時点でメインの仕掛けが読めてしまうと思います。 まあ、他にも推理する要素はあるんですが、仕掛けが読めた時点でちょっと興ざめになってしまいますね。

 

でも、読み進めていくうちにミステリーかどうかはあまり関係なくなってきます。 ピアニストを目指す少女の成長物語としての興味、音楽小説として興味のほうが大きくなっているのです。

 

特に、ピアノやオーケストラの演奏シーンは素晴らしいものです。

岬が演奏するベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の演奏シーンは、下のように始まります。

 

第1楽章、いきなりフルオーケストラの主和音がホールを揺るがす。 すぐに流麗なピアノ独奏が湧き起こり、序奏が生み出される。 力強く踊るような打鍵。 只の一音がホールの壁を突き破らんばかりの勢いで飛んでくる。 その音は当然聴衆の、そしてあたしの胸にも深々と突き刺さった。 息が止まるかと思った 透明で、そして勇壮な旋律。 たったの数小節で魂はがっしりとつかまれて身じろぎもできない。

 

クラシック音楽の演奏シーンでここまで臨場感に溢れた描写をしている小説は、他には藤谷治さんの「船に乗れ!」くらいでしょうか。

 

クライマックスのピアノコンクールでは、火傷の後遺症でまだ長時間指が動かないにもかかわらず、果敢に挑戦する主人公の姿に胸をうたれます。 ピアノ演奏のシーンも迫力満点です。

 

ミステリーは形式だと考え、ピアニストを目指す少女の成長を描く音楽小説として読んでも十分楽しめる作品だと思います