青山文平さんは、『本売る日々』に収録された中編「初めての開板」で江戸時代の医療を描いていました。

 

これも傑作でしたが、長編の本作ではさらに踏み込んでいます。 漢方医が幅を利かせていた江戸時代。 蛮医などとも呼ばれていた西洋外科医が取り上げられています。

 

目付の永井重彰は、父で小納戸頭取の元重から御藩主の病状を告げられる。 手術を依頼されたのは向坂清庵。 向坂は麻沸湯による全身麻酔を使った華岡流外科の名医で、重彰にとっては、息子・拡の命を救ってくれた恩人でもあった。

 

御藩主の手術に万が一のことが起これば、向坂の立場は危うくなる。 そこで、元重は手術を秘密裡に行う計画を立てるが…。 (出版社紹介文)

 

簡単な手術で治る赤子を、漢方医が一瞥して見捨てるシーンがあって衝撃を受けました。 漢方医療には手術という概念が無いのです。

 

本作では、主人公の目付・永井重彰の息子・拡の病気、そして藩主の病気を手術によって治すシーンが詳細に描写されます。 執刀するのは華岡青洲の流れをくむ名医・向坂清庵。

 

拡の手術と予後の処置においては家族の絆が、藩主の手術については西洋医学推進への意図が、青山文平さんの簡潔で読みやすくて格調高い文章で語られていきます。

 

このままラストまで行くのかと思えた残り二十数ページ。 驚きの急展開が待っていました。 そしてこの作品は江戸時代の医療だけでなく、侍というものを描いた時代小説であることを思い知らされました。 お勧め。

 

青山文平さんの小説を読むのはこれで17作目、本作ですべて読んだことになります。 本当にどの作品も素晴らしかった。 次作を期待しています。