雑感 52「深酒と転倒」(6) | 獏井獏山のブログ

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「暗がりの階段滑って顎を打つ」

 法事で実家に帰った時のこと。坊さんの読経や墓参りを終え、近隣や親戚への供物の区分け・配りも終えて早目の夕食が始まる。仕出し屋で誂えた膳を前にして故人の思い出話など、久々に顔を合わす親戚連の話は弾む。

 こうなると法事と雖も…いや、法事ゆえの…兄弟姉妹・従兄弟姉妹の集まり故の会話が熱を帯びて来、自然と酒も進むものである。…夕食会が終る頃には外は闇の中だった。

 

 最寄り駅まで車で送ってくれる約束をしていた姪に電話をして待っていたが、酒の所為もあって気持が急き「ひょっとして家の前まで来ているかも知れない。」と玄関口まで行ったのが間違いだった。

 

 玄関の硝子戸を開け、飛び石伝いに前栽を横切って門の戸を開けるまではよかった。…しかしこの時、酒に酔っていた私は、3年前に建て替えられたこの家の門の前に石段がある事を忘れていたのだ。

 家の前の道路は、村を貫く主要道路から横に約20m入り込んだ場所で、其処から街灯に照らされた主要道路は見えるが、目の前は真っ暗だった。

…危険が私を襲ったのは「なんや、やっぱりまだ来てなんだか。」と呟きながら、酔い覚ましがてらに主要道路まで出てみようと思い、一歩を踏み出した時だった。

次の瞬間、落差1m程の石段(3段)を踏み外してアスファルトの路上に転落していた。玄関を出る時、態々靴を履くこともないと突ッカケ履きだったのも足元をグラ付かせる大きな要因になったようだ。

 

石段を一気に滑り道路に叩き付けられた時、咄嗟に両手を突いてはいたが、支え切れなかった顎が路面に叩き付けられていた。

声を出した覚えはないが、駆け付けて呉れた甥が「大丈夫か、オッチャン。舌噛まなかった?」と声を掛けて呉れた。舌は噛まなかったが、顎先から血が出て下顎全体に痛みが走った。

…顎先の傷は数日で治ったが耳に近い付根の痛みは尾を引いて、今でも時折、食事中に痛みを感じることがある。

 

しかし、今思うとこの程度で済んだのは不幸中の幸だった。

この時若し、這いつくばらずに足で堪えて蹈鞴(たたら)を踏んでいたなら、逆に2メートル幅の道の向いにある植え込みの土台石に頭を打ち付けて一貫の終りだったかも知れない。