我半⑧「公務員」(5) | 獏井獏山のブログ

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【初めての仕事】

 「局」に採用された私の席は会計係だった。

 会計係には坪井第一係長、青山第二係長のほか、係員として稲掘、林、辻田の各氏が居り、予算の執行に伴う給与計算・支払、職員の旅費計算・支給、共済組合事務、国有財産(庁舎関係)管理、などの実行計画の策定と事務処理及び法定帳簿の記帳、証拠書類の編綴、などを分担して所掌していた。

 私はというと入って間もないことから、上記の法定帳簿の補助帳簿の記帳や職員が請求する物品を倉庫から出してきて支給する事務などを行っていた。会計事務の根幹となる部分から外れた責任の軽い仕事で、事務量的にも軽く、別に私が居なくても他の係員が片手間でこなせるものであった。その辺りが当時(現在注:今から60年ほど前)の国の行政機関のゆったりした事務の流れで、新人の私が気を使うことは殆どなかった。

 

 そんな中、私が参ったのは電話である。…

 旧陸軍第八連隊兵舎だった木造庁舎の玄関を入ってすぐ左にある総務課の部屋には、庶務、人事、会計(第一、第二)、の各係があり、係ごとに「島」を作っていた。会計係では第一と第二が、各3人の机を向かい合わせて座っていた。

 電話は2台あって、誰からでも手が届くように「島」の中程に置いてある。この電話が引っ切り無しに鳴る。すると誰かがスッと手を伸ばして受話器を取る。学校時代から人前で目立つことが苦手な私はその都度胸を撫でおろしていた。しかし何時も何時もそれで済ませる訳にはいかない。

 …その時も目の前の電話が鳴ったが私は手を出し兼ねて誰かが取るのを待っていた。私以外に卑近距離の席に居る林さんは法定帳簿の記入に余念がなく、辻田氏は旅費の計算のため資料をひっくり返していた。電話が3~4回なった時、私も咄嗟に補助帳簿に記入するようなポーズを取った。

「獏井さん!」鋭い声が飛んできたのはその時だった。「ボヤボヤせんと早よ電話取らんかいな。」何時にない林さんの厳しい顔が私を直視した。慌てて電話機を取った私はその時何を話したか覚えていない。職場で電話機に触れたのはそれが最初だった。それ以降、私は臆することなく電話を取ることが出来るようになり、さして重要な仕事を持っていない私がその後、殆ど一手に電話番を引き受けた。その結果、気後れするような事態がなくなった私は、仕事の慣れと共に益々気楽に楽しい生活を手に入れたのである。