我半⑤「高校時代」(11)…付録 | 獏井獏山のブログ

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【大阪百貨店・実習記】…8

 

(実習期間の事々…続き)

 私の居る売場にはクレープシャツ上下とステテコが置いてあるのだが、我々にとって何が迷惑かといって、ステテコを散々出さされる程迷惑千万極まることはない。これを見せて呉れ、あれを見せて呉れと云ってガラスボックスから、ブロードの物やら人絹やらを10枚から、果ては20枚も出させておいて「今、ここに主人が来てませんので、一度帰って好みを聞いてまいります。どうもすみません、失礼しました。」と云ってスゥ~っと行ってしまうか、良くて1枚買うのが関の山である。そんな婦人…いや、エエシの御婦人の後姿の憎らしさと云ったらない。出すのはそんなにも世話はないが、それを元に戻す時が厄介なのである。人権などはツルツル滑って云うことを聞かない。

 

 色々の人と当たっているうちに段々と仕事の内容が分かってきて、販売や発送伝票の書き方も覚えた。何よりも嫌なのは暇な事である。終り頃は気兼ねをしなくなったが、暇な時は退屈で嫌になる。そんな時でも、慣れてないから易々と話も出来ない。店員さんも同じように暇だからまだましというものだが…。

 

 私と同じ枠内で仕事をしている実習生は私を含めて5人居て、私の他に林と云う男子。他は女子が3人である。

 実際いうと私は初めから言葉を丁寧に使い過ぎていた。ところが林の方は去年も来ていたので、百貨店の空気がよく分かっている所為か、言葉も店員並に易々と使って、易々と店員と話をした。私は実に神経過敏な男である。何故かしら自分が取り残されたような気がしてならない。林と私が2人で話をしている時など、店員さんの方で用事を頼む時(用事と云えば、発送する品を地下の発送部へ持ってい行くとか、伝票に課長の印を貰いに行くとか、包装紙等の売場材料を採りに行くことであるが)何時も「林っさぁーん」と呼ぶ。そして他の誰でもそうなのである。そこで私はだんだん言葉を家で使っている普通の言葉に仕向けて行った。それで漸く喋れるようになったのである。(続く)