車は、まもなくホテルに到着した。

ひとまず、トイレに行った私。

出ると、彼はソファでiQOSを吸っていた。


隣に腰を下ろし、肩が触れ合う距離で座った。


iQOSを吸い終わった彼。

こちらを向くと、両手を広げてきた。


抱きしめてください、

と言わんばかりに。


もちろん、私も両手を広げ、ハグに答えた。


抱きしめ合う。


手を繋ぐことも拒否した彼が、今、腕の中で泣いている。子供みたいに。ただ、抱きしめて欲しくて、背中を丸めている。


私は、穏やかに口を開いた。


「ねぇ…わからないけどさ。

人って、こういう時があるんだよ。辛くてどうしようもない時が」


「私もあったよ。離婚したとき。

裁判も、全部自分で抱えなきゃならなくなったとき、怖くて怖くて眠れなかったし、仕事してる最中に、訳もなく涙が出て止まらなくなったことがあった。それこそ、病院に通わなきゃならないくらいだった。」


「ね、こういう時、あるんだよ。辛いよね。でもさ、泣いていいんだよ。そしたら、またこうしてハグしよう」


体を少し離して、彼の顔を見る。


「うん…冬がいいなら…」


「鼻水が…止まらない(笑)」


彼が、私の手を引きながら、ベッドにティッシュを取りに行った。

鼻をかみ、涙を拭いている。


ティッシュをゴミ箱に捨てたところで、おもむろに押し倒された。


ベッドの上で、全身の体重を私にかけてくる。

もちろん、服は着たまま。

私は、彼が求めるがまま、背中を抱き止めてあげた。時折背中をさすりながら。


彼の辛さも苦しみも、

こうすることしか出来ないけど、

少しだけでも和らいでくれたらいい。


そんな気持ちで、彼を抱きしめ続けた。