プレテスト倒産法第1問 | 予備校派のための司法試験・予備試験塾 KLOライセンス

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第1 小問(1)
 XはAに対して、鋼材40トンの代物弁済を否認(破産法162条1項2号、以下法名略す。)して、その効果(167条1項)として鋼材の引渡しを請求できるか。
1(1)まず、SのAに対する代物弁済は、代金の支払期日である9月20日よりも前の8月25日になされていることから「時期が破産者の義務に属しない行為」(162条1項2号)にあたる。
 (2)また、上記8月25日は、Sが「支払不能」に陥った9月20日の「前三十日以内」にあたる。
 (3)そして、Aが上記代物弁済を受けたのは、Sの資金繰りの悪化に不安を抱いたためであるから悪意であったといえる。
 (4)よって、162条1項2号の要件を満たす。
2 そうだとしても、AはSに対し本件鋼材につき動産売買の先取特権(民法321条、同330条1項3号)を有しているから、別除権者にあたる(2条10項9項)。そのため、否認の一般的要件である有害性を欠き否認が否定されないか。
(1)まず、破産管財人は差押え債権者と同様の地位を有するが、「第三取得者」(民法333条)ではないからAは依然として動産売買先取特権を有する。
(2)そして、同条の趣旨は偏頗行為によって債権者平等原則が害されるのを防ぐ点にある。しかし、別除権者はもともと破産手続きによらずに権利行使が可能であり(65条1項)、別除権の目的たる物はもともと債権者の共同担保となっているものではない。
とすれば、動産売買先取特権者が当該動産の代物弁済を受けたとしても債権者の共同担保を減損させるものではなく債権者平等原則に反しない。
   よって、特段の事情のない限り、有害性はなく、否認は認められないと解すべきである。
(2)本件で、Aは既に引渡しという対抗要件を備えているし、Aの債権額が1600万円であり、鋼材40トン分の価値をはるかに上回る債権を有しているので、有害性を認めるような特段の事情はない。
(3)よって、否認は認められない。
3 以上から、XはAに鋼材の引渡しを請求できない。
第2 小問(2)
 XはSA間の債権譲渡を162条1項2号により否認することはできないか。
1 債権譲渡による代物弁済も弁済期の前になされているため、「時期が破産者の義務に属しない行為」にあたり、また、「支払不能になる前三十日以内」にされたといえる。そして、Aは前述の通り悪意である。
2 そうだとしても、Aは動産売買先取特権者であり、本件鋼材60トンの売却代金について物上代位(民法304条)が可能であるから有害性を欠き否認できないのではないか。
(1)この点、物上代位が認められる限りは別除権目的物による代物弁済の場合と同様に、その代金債権は破産債権者の共同担保となっていないと評価するのが妥当である。
   よって、かかる場合も特段の事情のない限り、有害性を欠き否認の対象とならないと考える。
(2)本件では、Aの物上代位の効力は60トン分の鋼材の転売代金全額に及んでいるため特段の事情はなく、有害性は認められない。
3 よって、Xによる否認は認められない。
第3 小問(3)
 Xは鋼材100トンの代物弁済を否認(162条1項2号)して、原状回復の効果としてAに鋼材の引渡しを請求できないか。
1 まず、本件代物弁済も8月30日になされているため、162条1項2号の要件を満たすことについては小問(1)(2)と同様である。
2 では、本件でも有害性を欠き否認は否定されないか。
(1)たしかに、転売契約の解除によって、Aは動産売買先取特権を行使しうるようになり、鋼材100トンは破産債権者の共同担保とはならないとも思える。
(2)しかし、参照判例の見解にあるように、買主が転売契約を合意解除して第三取得者から鋼材を取り戻す行為は、売主に対する関係では法的に不可能であった担保権の行使を可能にするという意味において、実質的には新たな担保権の設定と同視することができるから、かかる場合は有害性が認められると解する。
(3)本件では、SC間の売買契約の合意解除による鋼材100トンの取戻し、Aへの代物弁済という一連の行為は、鋼材100トンをAに返還するという意図の下に一対として行われたものであり、支払不能後に義務なく設定された担保権の目的物を代物弁済に供する場合に等しいといえ、有害性が認められる。
3 よって、否認が認められ、Xの請求は認められる。
                           以上