旧司平成2年度民法第2問 | 予備校派のための司法試験・予備試験塾 KLOライセンス

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第1 小問1(1)について 
1 Cの請求が認められるためには、AがBの代理人としてCと締結した売買契約が有効にAに効果帰属する必要があるところ、Aの代理行為は有効といえるか。
2 まず、BはAに何ら代理権を付与していない以上、Bの追認なき限り、AC間の売買契約は無効となるのが原則である(113条1項)。
3 では、761条は日常家事につき夫婦相互に法定代理権を認めたものと解されるところ、同条によりBに有効に効果帰属しないか。
  この点、「日常の家事」にあたるか否かは取引安全の見地から客観的に判断すべきところ、土地の売買は客観的にみて「日常の家事」にはあたらない。
  よって、761条によって本件売買契約が有効ともならない。
4 としても、761条の日常家事代理権を基本代理権とする110条の表見代理によりCを保護できないか。
  まず、110条の基本代理権には法定代理権も含まれると解する。
  そして、夫婦別産制(762条1項)と取引安全との調和の観点から、相手方において当該行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内と信ずるにつき正当の理由がある場合には、110条の趣旨を類推適用して相手方を保護すべきと解する。
  本件では、Cにおいて、Aの土地売却行為がAB夫婦の日常家事に関する法律行為の範囲内と信ずるような事情はうかがわれない。
よって、Cに正当の理由は認められず、表見代理は成立しない。
5 以上から、Aの代理行為は無効であり、Cの請求は認められない。
第2 小問1(2)について
1 Cは、無権代理行為をしたAに対して無権代理人の責任追及(117条1項)として損害賠償請求をすることが考えられる。
2 これに対し、Aは、相手方Cには契約締結に際し過失(117条2項)があるので、無権代理人の責任追及はできないと反論することが考えられるが、かかる反論は認められるか。
  本件では、たしかに、AはBの実印を持ってCと契約を締結している。しかし、夫婦であるAがBの実印を持ち出すことは容易であるから、その実印をBが渡したかについてBに確認する義務があるといえ、かかる確認を怠ったという点でCに過失があるといえる。
3 よって、Aの反論が認められ、Cの請求は認められない。
第3 小問2について
1 Dが相続放棄した場合
(1)本件では、本人Bが死亡し、無権代理人Aが相続している。かかる場合、無権代理行為は当然に有効となり、CはAに土地の所有権移転登記手続請求ができるのか。
   この点、相続によって無権代理人と本人の地位が融合し、無権代理行為が当然に有効となるとすると、相続という偶然の事情により相手方の取消権(115条)を奪う結果となり、妥当でない。
   そこで、無権代理人と本人の地位は併存すると解すべきである。
(2)もっとも、無権代理人が本人の地位を単独相続した場合には、自ら無権代理行為をした無権代理人が追認拒絶をすることは信義則(1条2項)に反し許されないと考える。
   よって、Dが相続放棄する場合、無権代理人Aが本人Bを単独相続することになるから、Aは追認拒絶をすることができない。
(3)その結果、Aの無権代理行為は有効となり、Cの土地の所有権移転登記手続請求は認められる。
2 Dが相続を放棄しなかった場合
 かかる場合も、Cの土地の所有権移転登記手続請求は認められ
るか。
(1)この場合、本人Bの地位は、無権代理人AとDが共同相続(898条)することになる。
そして、追認権は、性質上、共同相続人全員に不可分的に帰属すると解される。
とすれば、共同相続人Dの追認がない限り、無権代理人Aの相続分においても、無権代理行為は有効とはならないと解する。
他方、Dが追認した場合には、Aが追認拒絶することは信義則上許されないから、無権代理行為は有効となる。
   よって、Dが追認した場合にはCの請求は認められる。
(2)なお、いずれの場合もCはAに不法行為責任追及としての損害賠償請求(709条)はすることができる。
                           以上