ブリ糸状虫あるいはブリ紐線虫(Philometroides seriolae)の生活環 | ウッカリカサゴのブログ

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日本産魚類の仔稚魚のスケッチや標本写真、分類・同定等に関する文献情報、
趣味の沖釣り・油画などについての雑録です。

この生物は有名で、検索すると多くの記事が出てくるので、概要は省略する。

わかりやすく書かれているのはココ(グロテスクな写真が突然出てくるので注意):
https://tsurihack.com/8781
https://funq.jp/salt-world/article/753678/
https://kameya-fishing.com/turtle/method/%E5%AF%84%E7%94%9F%E8%99%AB/
https://yuime.jp/post/bigin-yellowtail-worms

 

食べても人に害はないが、市場価値を損なうので高い関心がもたれている。

 

「ブリ糸状虫」という名は中島 (1970) の提唱によるもので、ブリ筋肉線虫、ブリ皮膚線虫とも呼ばれている。

広島大学の長澤和也先生が「ブリ紐線虫 (ブリヒモセンチュウ)」への改称を提唱しているが(長澤、2008)、まだ広く浸透していないようである。

ちなみに、改称の理由は次のように記載されている(長澤、2008)。


『「糸状虫」と呼ばれる線虫類は哺乳動物等に寄生し, 分類学的にも異なる糸状虫上科 Filarioidea に属するものである。したがって, 魚類寄生性種に「糸状虫」を含む和名を用いることは, 哺乳動物寄生性種との分類学的関係に関して誤解を与える可能性がある。』

秋~冬にはあまり見かけないが、春から初夏に高確率で遭遇する。
養殖モノにはほとんどいない(稀にいる可能性はある)。

生活環について、本種の雌成虫は、春に宿主(ブリ)から虫体を海水中に出して仔虫を産む (中島・江草、1970)。

中間宿主に関する研究が中島・江草 (1970) によってカイアシ類を用いて行われたが、まだ特定されていない。

以下、ブリ糸状虫の生活環についての記事(SALT WORLD)から一部転載する:
『北村秀行が解説! 好敵手ブリの行動理論【Part 3】』

SALT WORLD 編集部 2021年12月09日
https://funq.jp/salt-world/article/753678/

『不思議なのは産卵が終わる時期の4月頃から、ブリの体内にブリ糸状虫が寄生し、筋肉内に黄色い隔壁の空洞ができるというものだ。
この穴はブリ糸状虫の雌が寄生した痕で、潮温が20度に上昇する頃、ブリの体外に出る。
雌雄同体で雄虫と雌虫に分かれ、雌虫は体腔内を移動しながら一年がかりで成熟し、寄生特定部でとぐろを巻き、雄虫と交接し、精子を受け渡すと雄虫は死んでしまう。
そして冬季、アミやオキアミ類が産卵で浮上する頃、雌虫は幼生を産出するために体外に脱出し、胎生で幼生を産出するのだ。
幼生はカイアシ類(中間宿主)に寄生し、それを捕食するアミやオキアミ類が寄生され、それを食べる魚が最終宿主となる
黒潮流域にはアミやオキアミが少ないので、ブリ糸状虫に寄生されたブリも少ない。
人に寄生はしないが、美味しい刺身を期待して、三枚にした時、とぐろを巻いて、動いたら叫び声が出そうだ。』

■参照
中島健次・江草周三 (1969).養殖ブリに寄生する大型線虫Philometroides seriolae (Ishii, 1931) Yamaguti, 1935.魚病研究 3: 115-117.

中島健次 (1970). 鯉糸状虫 (コイのハリガネムシ) の学名について. 魚病研究, 5: 4-11.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfp1966/5/1/5_1_4/_pdf/-char/ja

中島健次・江草周三 (1970). 鰤糸状虫の生活史に関する研究―I. 中間宿主と推定されるcopepodsへの仔虫感染実験. 魚病研究 5: 12-15. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfp1966/5/1/5_1_12/_pdf

長澤和也 (2008). 日本産魚類・両生類に寄生する蛇状線虫上科と鰻状線虫上科各種の目録(1916-2008年). 日本生物地理学会会報, 63: 111-124. https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00030994

横山 博・長澤和也 (2014). 総説 養殖魚介類の寄生虫の標準和名目録. 生物圏科学, 53:73-97.

https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030891101.pdf

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「中島・江草 (1970) 鰤糸状虫の生活史に関する研究―I 」の引用文献


・石井重美 (1931) 日本産魚類の寄生虫,9,岩波講座生物学18巻別項, pp.179~207.
・YAMAGUTI, S. (1935) Studies on the helminth fauna of Japan. Part 9. Nematodes of fishes I.Japanse J.Zool. 6 (2), 355~356.
・WIERZWIBKI, K. (1960) Philometrosis of crucian carp. Acta Prrasit. Polon. 8, 181~197.
・VIK, R. (1964) Notes on the life history of Philonema agubernaculum (Nematoda), Can.. Zool. 42, 511~512. J
・FURUYAMA, T. (1934) On the morphology and life-histoty of Philometra fujimotoi. Keijo J.Med. 5, 165~177.
・PLATZER, E.G. and ADAMS, J.R. (1967) The life history of a dracunculoid, Philonema oncorhynchi in Oncorhynchus nerka. Can. J. Zool. 45, 31~43.
・KO, R.C. and ADAMS, J.R. (1969) The development of Philonema oncorhynchi in Cyclops bicuspidatus in relation to temperature. Can.J.Zool. 47, 307~312.

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