第10回稚魚研究会《研究会の印象》から | ウッカリカサゴのブログ

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日本産魚類の仔稚魚のスケッチや標本写真、分類・同定等に関する文献情報、
趣味の沖釣り・油画などについての雑録です。

 

魚卵・稚仔魚の分類・生態等の研究者が参加して,第10回稚魚研究会が昭和63年11月26日(土)および27日(日)に中央研究所で行われました。

この研究会は,昭和54年から関西地方を中心として毎年1回開催されているもので,第1・2・6回が舞鶴の京都大学農学部附属水産実験所,第3・4回が京都の京都大学農学部,第5・8回が志摩の三重大学水産学部(現在:生物資源学部)附属水産実験所,第7回が高知の(株)西日本科学技術研究所,第9回が敦賀の福井県水産試験場で行われました。なお,現在の会員数は約100名となっています。

今回は10周年記念ということであり,また,今度は是非海生研でという強い要望もあって,初めて関東地方で開催されたものです。

参加者は大学から9名,高校から1名,国の水産研究所から5名,県の水産試験場(栽培漁業センタ一等を含む)から11名,博物館から1名,民間の調査会社等から9名,オランダからの研究者1名,海生研から9名の合計46名でした。初めて関東地方で開催されたということで,幽霊会員といわれていた方も何人か姿(足?)をお見せになりました。

26日は,午前9時30分から沖山宗雄会長(東京大学・海洋研究所教授)による開会の挨拶,中央研究所の深滝 弘所長による歓迎の挨拶に引続き,中央研究所内を約50分間にわたり見学し午後6時過ぎまで12題の研究発表が行われました。その後,民宿に会場を移して懇親会が開かれ深夜まで年1回の親交を深めました。

27日は,午前9時から3題の研究発表が行われたのち,文部省の特別招待研究員としてオランダの海洋研究所 (Netherlands Institute for Sea Research)から来日されている van der Veer 博士により「カレイ・ヒラメ類の稚仔魚の生態」と題して研究紹介が英語で行われました。休憩を挟んで来年の開催場所,今後の研究会の運営,情報交換の場としてのニューズ・レターの発行について協議が行われ,最後に,この研究会の事務局を務めておられる日本海区水産研究所の南 卓志氏による閉会の挨拶ののち,昼過ぎに解散となりました。一部の方はしばらく残られ,筆者の所蔵している稚魚標本を観察されました。

研究発表は魚卵・稚仔魚の分布・生態に関する話題が8題,分類関係が7題でした。27日の研究発表の後,種類の不明な稚魚についての査定会が予定されていたのですが,時間の都合もあり,残念ながらその場では行うことができませんでした。標本等を持参された方が少なかったのは,昨年3月に沖山宗雄編「日本産稚魚図鑑」が発刊され,現時点での情報・知見が総括されたことにより,稚魚分類の問題はまだ多くの課題を残しながらも,一応の決着がついたことによるものと思われます。

この研究会は通常の学会とは異なり,厳格な発表時間の制限を設けていないこともあってか,発表に熱が入るとともに活発な質疑・応答がなされ,世話役である筆者は,時計とのにらめっこでした。発表時間の厳格な制限のない点がこの研究会の最もよい点の一つではありますが,今後予想される研究発表数の増加と日程の問題を考えると,好むと好まざるとにかかわらず,次第に学会形式に近づかざるをえないような感想を抱きました。また,会員数の増加に伴い,会場設営の問題も出てくるので,研究会としての適正規模といったことも今後考えていかなければならないようです。

両日とも,幸い天気に恵まれましたが,上空に寒気を伴った低気圧が日本海を通過したため強い西風が吹き,御宿の海は大時化で,日本海側では初雪の見られたところもあったようです。数人の方がテニスのラケットを持参され,昼休み等に裏のコートで楽しまれました。

(海生研ニュースNo.22, 1989年1月発行より転載)

 

 1. 藤田真二・木下 泉・高橋勇夫・東 健作(西日本科技研) 四万十川河口域におけるスズキ仔稚魚の日齢と成長
 2. 花本雅子(新日気)・安部恒之・辻野耕實・日下部敬之(大阪水試) 大阪湾南部砕波帯におけるクロダイ幼稚仔の出現と食性
 3. 野元彰人(新日気) コノシロ卵のサイズ変化がふ化仔魚の成長と生残に及ぼす影響
 4. 永澤 亨(日水研) 夏季の北部日本海域における稚仔魚の分布パターン
 5. 宮内康子・大田喜之(三洋水路) イシカワシラウオのふ化実験
 6. 遊佐多津雄(技術士会) シラウオの生活史(総説),特に稚魚期について
 7. 桐山隆哉・中山善登・木村清志(三重大生資) 水槽内自然産出によって得られたキュウセンの卵および仔稚魚
 8. 沖山宗雄(東大海洋研) オトメウシノシタ変態期稚魚で観察された特異な性状  
 9. 塩垣 優(青森水増) メダマウオ科の稚魚について 
10. 小島純一(海生研) 御宿の漁港内で採集されたイソアイナメ(チゴダラ科)およびカイワリの幼期
11. 中村元彦(京大農) 若狭湾西部丹後海における卵・仔魚の鉛直分布と物理環境の関係
12. 岩槻幸雄(東大農) 熱塩フロントにおける仔稚魚とかいあし類の分布変動
13. 南 卓志(日水研) 大和堆周辺で採集した仔稚魚について
14. 小西芳信(南西水研・高知) 日本産キンメダイ目 (Beryciformes)数種の幼期.
15. 石田 実(南西水研・高知) クロボウズギス科 (Chiasmodontidae)2種の幼期 
16. Ir. H.W. van der Veer (Netherlands Institute for Sea Research) Ecology of larval flatfishes