「現状維持というのは、つねに醜悪な思想であり、また、現状破壊というのは、つねに飢え渇いた貧しい思想である」 三島由紀夫
マンガ、コミック、comic、カツーン、・・・・・・
それらは、いまや、世界の最先端のartと言っても過言でもないかしれません。
ピンからキリまで、巨大で膨大なる無意識の渦潮ですが。・・・・・
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戸峰美太郎・・・・・・・
ビックコミック賞作家である。
彼の傑作。「神鷺」
ビックコミック賞を獲得している。
このマンガ賞はハードルが高かったので有名。実際にこの賞について言えば、全18回のうち「ビッグコミック賞」そのものを受賞したのは70年(第4回)の、この、戸峰美太郎と75年(第14回)の一ノ関圭のたった2人だけ。
残りの作家は皆、佳作か、準佳作(たとえば、やまだ紫、谷口ジロー、日野日出志、西岸良平、御厨さと美、諸星大二郎、弘兼憲史、わたせ青三…などなど、すごいそうそうたるメンバー。
若き頃に、買って、大事に書庫にしまいながら、たまに、開いては感心している。・・・
絵のうまさは抜群。
一ノ関嬢のドローイングにはかなわないが、独特のデフォルメが美しい。
個人的には、こちらの線の方が好き。どうしても売れてくると線が荒れますね。
かなりの小説を読んでいると思われる。
複雑に屈折したドラマが読み応えあり。
この神鷺も、私の愛蔵であるが、私は彼の物語よりもクロッキー、デッサンにひかれる。
女性の魅力をひとつのパターンにはしているが、それでも、十分に彼女達の羞恥は素晴らしい日本の文化。 なんでこんなに女の心理が詳しいのかと昔から気になった作家だった。
暗さがどうしてもヒット作にはむすびつかなかったのだろう。いつしか、消えた作家だったが、佳作でいつまでも記憶に残る名作である。
神社の境内に棄てられていた少女。そしてその横に死んでいた白鷺。捨て子の運命。
知能指数の低い兄。情愛深い祖母、そして病弱のその娘。
彼女は小さな頃から捨て子として皆からいじめられたのも、愚鈍の兄がいいふらすから。
そのため彼女は、自分のことを神さまがこの家族に与えた鷺なんだと言い聞かせる。
ひたむきに家族のために働く聖子。さとこ。
いつしか、美しく成長した彼女は一家を支えるために、バーにつとめる。
たくさんの言いよる男たちとは距離をおく。
そんな彼女に優しき男の明があらわれる。
そんな彼女のきもちを察してか、祖母が急になくなったのは、聖子が明に家族の秘密をうちあけたから三日目だった。
そんななか、兄が風呂をのぞいたり、聖子のあとにどこにでもついてきて、僕のお嫁さんになってと言うようになる。まるで、嫉妬しているかのように・・
そしてまた、母も遺書を知能指数の低い兄にたくし、「これを聖子にわたしなさい」と、大きく「遺書」と書いた手紙を聖子に手渡しする。
聖子は泣きながら家に駆け走るが、すでに遅し、母は首をつっている。
皆、私の幸福のためにしてくれている。
そう考えれば考えるほど、聖子は逆に嬉しいよりも、孤独になる自分を感じる。
どうしても一緒になってくれと家を勘当されても家を飛び出した恋人の明を棄てて、聖子は知恵おくれの兄と一緒に暮らすことを決意する。
苦労のなかに苦労した彼女は、自分が支えて来た家族に対する愛情だけが彼女のアイデンティティだったのかもしれない。
「私をひとりぽっちにしないでよ」
彼女は世間並みの幸福を棄てて、自分の小さなころからの自分が支えて来た兄とともに生きることを選択する。
甘くない現実の生き様が丁寧に書かれている。
いつも思うが、物語はやはり言葉。言葉が最初にあるのだと思う。
それは小説である。
そして、それをひとりだけで、金もかけずに、ありとあらゆる自分だけの孤独な想像力で、映画をつくるようにして、書き上げるのがマンガ。
総合芸術として、金をふんだんに使い、たくさんの才能を組み合わせ、皆でアイデアを出し合いながら、理想のイメージを作り上げて行くのがシネマ。
個人的な意見ですが、つまらぬbest-sellerの本を見栄と好奇心だけで、買うのならば、この
マンガ古典を読んだ方が、ずっと、頭脳と感性のサプリになります。
戸峰美太郎・・・・・・・彼の傑作。「神鷺」