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まるでSFのユートピア、夜の東京を写真に捉える

2018.06.16 Sat posted at 09:00 JST

江戸東京博物館の夜の外観

江戸東京博物館の夜の外観/TOM BLACHFORD

Jacopo Prisco, CNN

伝統的な高床式倉庫をモデルにした江戸東京博物館。日中に何のフィルターも通さず見ても印象的だ。

しかし夜になり、オーストラリアの写真家トム・ブラックフォード氏の手にかかると、博物館はディストピア的な大型構造物に変貌(へんぼう)する。その巨大な外観は異世界風の青みがかった色合いを帯びる。

この写真は、東京に焦点を絞った「Nihon Noir」と呼ばれる連作の一部。タイトルは作品の美学のもとになった映画ジャンル、ネオンノワールにちなんだものだ。

写真特集:まるでSF、夜の東京を見る
 写真特集:まるでSF、夜の東京を見る

ブラックフォード氏はメールでのインタビューで、「色彩だけでなく美学や手法も含め、半ば古典となっている映画『ブレードランナー』に大きく触発された」と説明。このほかの影響源として、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の映画「ドライヴ」や「オンリー・ゴッド」にも言及した。

自らの求める感覚を形にするため、撮影後には多くの編集作業を行ったという。「オレンジのタングステン光を排除するとともに、自然光や白色光の感じを全面的に取り除きたかった。写真のトーンは冷たくネオンの光に浸されたものにする必要があった。私にとっては、これこそ東京の夜の光の印象だからだ」

写真に収められた建物の中には、黒川紀章氏が設計した中銀カプセルタワービルもある。

中銀カプセルタワービル=トム・ブラックフォード氏
中銀カプセルタワービル=トム・ブラックフォード氏

同タワーは1972年に1カ月間で建設された。生物の成長に着想を得た日本の建築運動「メタボリズム」の珍しい例で、独立した140のカプセルで構成されている。カプセルは修繕や交換のため一つ一つ取り外すことを念頭に設計されており、いわば「生細胞」ともいえるが、こうした交換は1度も行われたことがない。

タワーは道路に隣接した狭い角にあり、高架道路に面している。正面から撮影するのはほぼ不可能だ。

ブラックフォード氏が現地に到着したところ、地上や周囲の歩道橋などからの眺めはいずれも、街灯の明かりで台無しになっていたという。

こうした状況でブラックフォード氏は、作業員が頭上で高速道路のケーブルを修理していることに気付いた。頼み込んで交渉した末、全員に作業を中断してもらうことに成功。クレーン付きトラックの装置を再び持ち上げて、ビルの正面に設置してもらった。

「彼らは私を引き上げてくれ、数分後には空中約18メートル、タワーを撮影するのに完璧な位置にいた。こうして撮影した写真は、自分の作品の中でも有数のお気に入りのショットだ」

一連の写真の基調を成しているのはプリツカー賞を受賞した建築家、丹下健三氏のデザインだ。丹下氏はメタボリズム運動の創始者で、黒川氏の師でもある。今回の連作では東京にある丹下氏設計のビルのうち、銀座の静岡新聞・静岡放送東京支社とお台場のフジテレビ本社の2つを扱っている。

静岡新聞・静岡放送東京支社ビル(丹下健三設計)=トム・ブラックフォード氏
静岡新聞・静岡放送東京支社ビル(丹下健三設計)=トム・ブラックフォード氏

ブラックフォード氏はメタボリズム運動だけでなく、1990年代のポストモダン期に建設されたビルや、東京のサイバーパンク的な雰囲気を体現する密集した街並みにも関心を寄せた。今回の写真は1週間で撮影したという。

「過酷な撮影だった。6夜連続で午後9時ごろから午前5時まで撮影した。ひと晩で12マイル(約19キロ)以上歩くことも多かった。おそらく150枚ほど撮影して、最後の15枚に至るまでふるいに掛けていった」

写真に収められた建物の大半は少なくとも築20年が経過しているが、いずれも東京という都市の未来的な本質をとらえている。ブラックフォード氏によれば、狙いは見る人に、「どこ」にいるのかではなく、「いつ」の時代に生きているのかに思いを巡らしてもらうことだという。

「最初に東京を訪れた時は、先進的な並行宇宙に移動してきたという感覚を受けた。今回の写真を通じてその感覚を伝えたかった」