戦争なぞなければ、良い。
世界の人たちが、あのロンドンオリンピックでも見せたように、笑顔で抱き合ったり、お互いをたたえたりしたように、楽しく暮らせないものだろうか。
静かに外の窓からこぼれる光の中で、茶を楽しんだり、友人と菓子をつまんだりする。
・・・・・
しかしながら。
先日も、記事にしたように、日本の女性キャスターが首を討ち抜かれている。
日本という安全な場を離れれば、もう、世界には安全な国などどこにもないような錯覚にもなる。
彼女のパートナーの男性が語っていたように、世界の戦場のことをやはり忘れてはいけないのだ。
忘れないからこそ、今の日本の平和は尊い。
日本も、数十年前に、私たちの仲間が血を流して、日本のその後の未来を約束してくれたのだから。
忘れられない、この暑い夏。
日本の広島長崎に原子爆弾を落とされても、その残酷さを未だにアメリカに告訴したり、金を求めたりはしない。
日本はほんとうに不思議な国だ。
能面のような国だと言った人がいたが、そうなのかもしれない。
世界の人から尊敬される半面、自分の心の中までは、簡単にさらけだしたりはしない。
気質なのだろうか。
暑い。
白い雲が広がる。
汗が流れ、昼は時間が止まったようにも感じることもある。
北海道でさへそうなのだから、東京はもっとすごいことなんだろうとも。
23歳で、空に散った、古谷眞二のことを思う。
彼の遺書を、三島由紀夫は、手にとって、泣いた。
決起を起こす1カ月前。
三島由紀夫氏は、江田島海上自衛隊第一術科学校教育参考館(現在の広島県江田島町にある海上自衛隊の教育資料館)に訪れて古谷の遺書を読み、「すごい名文だ。命がかかっているのだからかなわない。俺は命をかけて書いていない」と言って、声をあげて泣き出したという逸話が残る。
彼の独特の無邪気で、逆説好みの気質か、彼の作品に出てくる登場人物はあまり本好きな人はでてこない。
彼自身、違う本で書いているが、同じ文学者はその匂いが嫌いだとも書いている。
ただ、頭だけが知識や、似非思想でいっぱいになり、エラそうにしていることを一番嫌った。
私も片方では、谷崎純一郎氏のように、長生きして、性をテーマにした大小説・大長編、俗と聖をふたつともあわせ吞んだような作品を彼に期待したこともあったが、今は、もうかなわない。
それに彼は、もう文学者として死ぬことは嫌だと書いていたから。
暑い夏。
汗がたらたらと、噴き出てくる。
日本がすでに負けることを覚悟したうえで、特攻隊の指揮をとり、自分も海に散った古谷氏、敵艦を撃破したあと、どんな気持ちで海から空をみあげたのか。靖国のこえに耳を澄ませて―戦歿学徒十七人の肖像/明成社
¥1,575
Amazon.co.jp