日韓請求権協定は日本の義務を一方的に定めたもの ~政府は協定の締結に至る経緯を明らかに!~ | 野良猫の目

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放置は禁物、韓国政府代表が米国の新聞で日本を攻撃 事実を無視して捻じ曲げる韓国外務省報道官」というニュースが目につきました。

 

その要旨は次のようなものです。

○「韓国外務省の金仁澈(キム・インチョル)報道官は米国大手紙ウォール・ストリート・ジャーナル(98日付)に日本政府を非難する記事を投稿した。」

○「韓国は1965年の日韓請求権協定を忠実に守ってきたし、それを破る意図もまったくない。韓国大法院は同協定を守りつつ、日本による違法な植民地統治と侵略戦争に直接関連づけられる強制労働の犠牲者たちが受けた損害は、同協定の対象には含まれないことを指摘した。」

 

 ここで、改めて日韓請求権協定について整理してみました。

 

 

1.日韓請求権協定には、国連(実質的には米国)の関与があった

2019年7月に、徴用工問題について外務大臣が談話を発表しましたが、そのときの資料である「旧朝鮮半島出身労働者問題をめぐるこれまでの経緯と日本政府の立場」に次のような補注があり、関連する条項の英文と日本文が記載されていました。

「○(参考)

日韓請求権協定関連規定

(注)以下の英文は,協定締結時に日韓両国それぞれが国連事務局に提出し、その結果公表されているもの(正文は日本語及び韓国語)。

 

最初に日韓請求権協定を読んだときに、その文書の体裁から、この協定書の原文は英語ではないかと思っていましたが、この資料を読んでそれが確信できました。実際の作業としては、英語で協定文を作って国連(米国)の了解を得たあとに、それぞれに日本語、韓国語に翻訳して、それぞれを「正文」にしたのではないかと想像しています。

 

このことから、日韓請求権協定の内容についは、当時の米国政府が御墨付きえを与えていたとも考えることができます。そんな中で、韓国がウォール・ストリート・ジャーナルに日本政府を非難する記事を投稿したことは、それなりの成算があってのことと推し量ることができます。

 

それに対して、外務省が協定に署名する4年も前の交渉議事録を、それも協定書や付属書面で参照もされていないものを引っ張り出してきて、それを主張の根拠としているのは、英語で契約書を作る際の重要な要素の一つである“entire agreement”の考え方からすれば、“非常識”かつ“みっともない”としか言いようがありません。

 

 

2.日韓請求権協定上の韓国の義務とは

ここで、改めて日韓請求権協定の骨子を抜き出してみます。

 

① 日本政府の義務

韓国に3億米ドル相当の生産物及び役務を提供し、また、2億米ドル相当の貸し付けを行う(第1条第1項)。

② ①に対応する韓国政府の義務

(なし)

③ 合同委員会

実施に関する事項について勧告する合同委員を設置する(第1条第2項)。

④ 実施に必要な事項の取り決め

①を実施するための取り決めを行う(第1条第3項)。

⑤ ①及び②の効果

協定の対象外であるもの(第2条第2項)を除き、日韓両国及びその国民の他国とその国民との財産・利益・権利及びそれらの間の請求権に関する問題が完全に解決し、いかなる主張もできないことを確認する(第2条第1項、同条第3項)。

⑥ 紛争の解決

外交的交渉及び仲裁による(第3条)。

⑦ 発効

協定は批准書の交換により発効する(第4条)。

 

繰り返しになりますが、上の⑤で一方の国の国民の他方の国の国民に対する請求権については、国家間で協定をしただけでは消滅させることが出来ませんので、この部分については協定の効力がないことになります。そうならないために上の②で、個人の請求権を消滅させるための措置を韓国政府に義務づけなければならなかったのですが、当時の日本政府にはそれができませんでした

 

その後、どのような経緯があったのか分かりませんが、韓国政府は、韓国民が日本政府に対して有している請求権について、韓国政府がこれを弁済し、この請求権を消滅させるための措置を講じました当時の日米関係を含めた外交関係に於いてはここまでが精一杯で、最終的には韓国と対等な協定を結ぶだけの力がなかっただけなのかもしれません。

 

この記事では、韓国外務省の金仁澈報道官は「韓国は1965年の日韓請求権協定を忠実に守ってきた。」と言ったとされていますが、これも不正確だと思います。もともとこの協定には韓国政府の義務などなく、日本が一方的に義務を負う内容です。他の規定は、一つは拠出金の使途などの“条件”、日本が義務を果たすために必要な手続きを定めたものであり、他は日韓双方の仲裁に応じるという付随的な義務しかないのです。(協定に定めた仲裁手続に応じない韓国の姿勢にも疑問を感じますが、)これらの規定は、協定の目的を実現するための本質的な義務とは言えません。

 

河野元外相は、韓国に「国際法違反だ」という趣旨のことをいったと繰り返し報道されましたが、具体的に「何をしろ」とは言ってません。韓国の義務としては、仲裁に応じるという付随的な義務しか残されていないからでしょう。仲裁手続きを進めたところで、第三者に実際に署名された協定書の内容を出発点として判断されたら、日本が勝つという“都合のよい奇跡”が起きるなどという保証はないのです。

 

 

外務省は、協定書を逐条的に検討したり、協定締結当時の事情を振り返ることをしたのでしょうか。それとも、それをやったうえで、政治的理由により、協定の都合の良い条文だけを切り出して、あたかも日本側には一切の落ち度がないように装って韓国を批判しているのでしょうか。

 

歴代の政権そして官僚は、自分達の面子を重んじる余り、事実を国民に知らせずに、対面を繕うことが多いように思います。現在の安倍政権下では、特にそれが目立ちます。日韓関係においても、その蓄積が現在の対立を招いている要因の一つのように思います。

 

政府は、日韓請求権協定の締結当時、どのような経緯で内容がスカスカの協定を結ばざるを得なかったのか、どのように国連(米国)が関与したのかを国民に対して明らかにして、今後、どのような展望の下に日韓関係を推し進めて行こうとしているのかを国民に対して説明する義務があると思います。

 

青色の文字にはリンクが貼ってあります。】