あみは今、小麦と卵の経口免疫療法を受けている。

小麦については、1月16日(火)の受診時にうどんを2.1g食べられるようになった。200gという最終目標を遠い目標に、5g食べられるようになったらたけのこの里を一粒食べるのを近い目標に、あみもまあ今のところは前向きに、すんなり毎日、決まった量を摂取できている。

問題は卵。

2015年3月に卵白1個分をクリアしてから、卵の経口免疫療法は、維持期に入った。最初は毎日、次は1日おき、次は2日おきと徐々に間隔を開けて、卵を1個ずつ食べてきた。現在は8日おき。気づけばもうすぐ4年になる。

こうして定期的にアレルゲンを摂取するのは、経口免疫療法によって得たアレルゲンに対する免疫寛容という状態を維持するため。その長く摂らない状況が続くと、免疫寛容の状態でなくなり、またアレルギー反応が起こるようになり、食べられなくなってしまうといわれている#。

卵1個であれば、なんでもいいわけではない。

あみの場合は、水から入れて沸騰後10分間ゆでた卵か、同等の時間同等の熱で調理したものでなければならない。そのための調理方法をいくら考えても思いつけないので、この4年近く、ずっと固ゆで卵を食べさせている。

最初の頃は、丸ごとそのままのゆで卵に塩をつけて、嫌々ながらも食べていた。でも、だんだん嫌になって、今は、スプーンで細かく刻んで卵を使っていないマヨネーズタイプのドレッシングで和えたもの(卵サンドの中身と同じ)を食べている。

でも、これも、あみにとっては美味しくない。
「美味しくない」
「オエッてなる」
と言って、毎回、なかなか食べてくれなくなった。

一時期、「5分以内に食べたら、200円」というご褒美作戦で、なんとか繋いでいたけれど、最近はそれも通じなくなってきた。
「無理」
「本当にまずい」
「じゃあ、お母さんも海老を食べてよ(私は海老が苦手)」
「カニの治療してよ(カニは私のアレルゲン)」
等々言って、食べる準備ができてから食べるまでに、2時間もかかることもある。その間、励ましなだめすかし、私も毎回ひどく消耗する。

1月10日の夜、食べさせようとしたときのこと。
卵サンドの中身を用意し、食べるよう促しても、いつまで待っても食べようとしない。いつものように、なだめすかし、やっと一口、口に入れるも、
「無理。今日のは味が違う。もう食べない」
と言って、食べるのをやめてしまう。
「じゃあ、明日にする?」
と聞くと、明日も食べないと言う。

ここまででも、かなりの時間が経って、私も言葉の限りを尽くして説得を試み続けていたので、つい、声が大きくなる。

そんなときに、珍しく早く帰ってきた夫が独り言のように言う。
「なんか、いい食べ方、ないかなぁ。10分焼いた卵焼きとか」
ムカッ!
そんなのいろいろ考えて考えて思いつかないから困ってるの!
卵焼きって、10分も焼いたら、黒焦げになるかパサパサになるか、そのどっちかだよ。
前の前の主治医の提案で、5分炒めた炒り卵を食べさせてみたこともあるけど、すぐ症状が出てだめだった。フライパンで卵を火にかけるのは5分が限界だと思う。
思いつきでモノを言うな。

悲しくなる。

あみは、頑として食べない。

「食べなくてどうするの?また全然食べられなくなっちゃうんだよ!」
と言っても、口をつぐんだまま。
「ほら、食べて!」
私がスプーンですくって口元へ運ぶと、顔をそむけてテーブルの下へ潜り込んでしまった。
「食べなさいって!」
スプーンを持ってテーブルの下を追い回す。
「あみが頑張ってるのはわかってるけど、お母さんだって頑張ってるんだよ!ここで食べるのをやめちゃったら、今まで何年も頑張ってきたことが無駄になっちゃうんだよ。また全然食べられなくなっちゃうんだよ!」
自分でも止められなくなってしまい、怒鳴り散らす。
更には、あみの腕を強く掴んで、テーブルの下から引きずり出そうとまでした。

どのくらい時間が経ったか、やっと
「食べる、食べる!」
と言って、あみはテーブルの下から出て、椅子に座った。

でも、なかなか食べ始めない。イライラするので、カウンターキッチンの中へ入って、残っていた洗い物を始めた。洗い物が終わっても、あみは食べる気配を見せないので、タオルで手を拭きながら、
「食べないなら、それでどうするの?」
と言うと、
「食べてるじゃん!!」
それまで静観していた夫が思い切り怒鳴った。
タオルで手を拭くためにかがんで死角になった瞬間に食べ始めたのだ。

夫、本当にムカつく。それまでの間、下手に口出しせずに放っておいてくれたのはよかったのだけど、ここへ来て、いきなり怒鳴らなくても。

そして、あみはなんとかチョビチョビと卵を食べ終わった。

私は、夫とあみと自分自身に対する腹立ちが収まらず、それから寝るまでの間、一切、口をきかず、ムッとしたまま過ごした。

これって虐待だよなー。

翌日、夫がいつものように昼休みに電話してきて言った。
「お母さんも頑張ってるって言っても通じないよ」
そんなことは、わかってる。わかってるけど、言わずにはいられなかったんだ。
「食べたら褒めてやればいいのに。そしたら、次も頑張って食べようと思うでしょ?」
はあぁ?
「褒めてますけど!いつも!前回も褒めてます!でも、食べてないでしょ!」
まったく。
病気が悪くなって以来、涙というものが出なくなっていたのだけど、このときばかりは泣けてきた。
ゴチャゴチャ言うなら、8日に1回早く帰ってきて、自分から主体性を持って食べさせてみてほしい。

22日の定期受診のとき、卵の食べ方について、主治医に相談してみた。薄焼き卵か炒り卵はどうかと聞かれたけれど、前述のように炒り卵で残念な結果になっていたので、あみは嫌だと首を振った。

「180℃で20分焼いたプリンはどうでしょう?加熱しすぎですか?」

クックパッドでレシピを見て気になっていたので聞いてみた。

「いいですよ。毎回でなければ」

そこで、1月26日に作ってみた。

上白糖がなかったので、きび砂糖でカラメルを作ろうとしたらうまくいかず、グラニュー糖でもだめで、コンビニへ白砂糖を買いに走ったり。あみが本格的にやりたいと言うので、プリン液をちゃんと漉したり。悪戦苦闘しながら、面倒だけどあみにも手伝わせながら、なんとか作った。

出来上がったプリンを手に取ると、
「臭い……」
とポツリ。
えええー?これ、臭いの?
恐る恐るほんのちょっぴりスプーンに掬って口に運ぶ。
「ダメ、まずい。ゆで卵のほうがマシ」
そうなのかー。

超がっかり。

それだけでは済まなかった。

30分ほど経った頃、
「やっぱり無理。口の中がへん。喉もイガイがする。薬のむ」
と言う。

急いでプレドニゾロンとジルテックをのませ、更に30分ほどで症状が治まり、事なきを得た。

沸騰後、10分ゆでる。
180℃で20分焼く。

プリンのほうが温度も加熱時間も長いのに。何がいけないんだろう?

その日は卵を食べたことにはならないので、翌日、あらためてゆで卵を食べた。このときは、嫌がることなくサッと食べてくれた。

何かいい手はないものかなぁ。