山田健一は、会社での仕事に誇りを持っていた。

 

若い頃からの努力が実を結び、部署のリーダーとして、同期よりも少し先を行く自信があった。だが、最近、その自信が崩れつつあった。

 

この半年で、給料が減ったのだ。

最初は小さな金額だったが、何度も続く減額通知を受け取るたびに、心の中に重い石が積もっていった。

 

経済状況が悪化し、会社は厳しい役職差別を繰り広げていった。

しかし、それでも彼は納得できなかった。なぜ、こんなにも努力しているのに、報酬は減る一方なのか。

 

彼は考えた。副業をすることで、少しでも収入を補えれば、生活は楽になるだろう。

 

かつて趣味でやっていたウェブデザインのスキルを活かせば、月に数万円の収入を得ることもできるはずだった。

だが、その一歩を踏み出せなかった。会社の規則が彼の足を縛っていたからだ。

 

「副業禁止」というルールは、彼にとって無視できないものだった。

 

これを破ることで、もし会社に知られたら、今度こそ仕事を失うかもしれない。そんな恐怖が、いつも彼の心を占めていた。

 

彼は夜、家で一人で過ごすことが多くなった。

 

妻は何も知らずに「大丈夫?」と声をかけてくれるが、その問いが痛い。どう答えても、心の中で広がる空虚感を隠しきれなかった。

 

「どうしてこんなに苦しいんだろう…」

 

ある晩、健一はついにネットで副業をしている人たちのブログを読んでしまった。

 

彼らは皆、自分の好きなことを仕事にして、自由な時間を手に入れているように見えた。自分もあんな風になりたかった。しかし、すぐに現実が戻る。会社にバレたらどうなるか、すぐに頭の中でシミュレーションが始まった。

 

次の日、健一は上司に呼ばれた。

上司は、彼に不安定な状況を気にかけていた。

 

「最近、どうだ? 仕事の調子は?」

 

健一は無理に笑顔を作りながら答えた。

 

「大丈夫です。少し大変ですけど、なんとかやっています。」

 

上司は頷き、しばらく沈黙が続いた。

 

「それと、君がもし副業をしたいなら、私には何も言わない方がいいかもしれないな。」

 

その言葉が、健一を一瞬で凍りつかせた。

 

上司の目を見て、彼は悟った。会社は副業を認めていないだけではなく、あくまで表向きの姿勢を取っているだけだったのだ。

 

その日、健一は帰り道に立ち止まり、空を見上げた。

雲一つない青空が広がっていたが、彼にはそれがとても遠く、手が届かないものに感じられた。

 

「どうすればいいんだ…」

 

会社に忠実に働き続ければ、生活は安定するだろう。

 

しかし、その安定は彼にとって鎖のように重く、動けなくさせていた。

副業をする勇気がない。だからこそ、彼はますます孤独に感じるのだった。

 

その夜、健一はベッドに横たわりながら、心の中で何度も呟いた。

 

「いつまでこんな生活を続けるんだろう…」

そして、目を閉じたまま、彼は静かに眠りに落ちていった。