電気を消し、布団に潜り込む。
現実世界は文字通りの真っ暗闇に包まれる。
ああ、この瞬間がたまらない。おっさんはそう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。
夢の中では、彼は全能の存在だった。
空を飛び、過去へ遡り、想像しうる限りのあらゆる場所へ瞬時に移動できる。昨夜は巨大な龍に乗って宇宙を旅していた。無数の星々が背後を流れ、冷たい宇宙の風が肌を撫でる感覚まで覚えている。
意識が現実から離れ、夢の世界へと深く沈んでいく。しかし、完全に眠ってしまう寸前、おっさんはある儀式を行う。それは、夢の続きを想像すること。
龍との宇宙旅行の続きを思い描く。
今度は未知の惑星に着陸し、奇妙な生物たちと出会う場面を想像する。彼らは言葉を持たない代わりに、テレパシーで意思疎通を図ってくる。友好的な彼らは、おっさんを歓迎し、惑星の秘密を教えてくれる…。
夢と現の狭間、曖昧な意識の中で紡がれる物語は、現実よりも鮮明で、五感を刺激する。おっさんはその感覚を愛していた。
そして、朝が来る。容赦なく降り注ぐ朝日が、おっさんを夢の世界から引き戻す。重い瞼を開けると、そこはいつもの見慣れた部屋。夢の痕跡は、かすかな記憶と、温かい余韻だけを残して消え去る。
だが、おっさんは落胆しない。なぜなら、彼にはもう一つの真っ暗闇が残されているからだ。
寝起きでまだ薄暗い部屋の中、おっさんは再び目を閉じる。
今度は夢の続きではなく、夢の続きを想像したことの続きを想像するのだ。
未知の惑星で得た知識を元に、地球の歴史を考察する。もし、太古の地球に彼らのような存在が訪れていたとしたら?文明の発展にどのような影響を与えただろうか?
思考は自由に飛び回る。歴史、科学、ファンタジー、あらゆる要素が混ざり合い、おっさんだけの壮大な物語が構築されていく。
やがて、朝の支度を始める時間になる。おっさんはゆっくりと起き上がり、顔を洗う。鏡に映った自分の顔は、少しばかり疲れているかもしれないが、どこか満足げだ。
今日も一日が始まる。
現実世界は夢ほど自由ではないかもしれない。しかし、おっさんには秘密の場所がある。眠る前の真っ暗闇と、目覚めた後の真っ暗闇。そこで彼は、誰にも邪魔されずに、無限の物語を創造し続けるのだ。
それは、おっさんだけの、ささやかな、しかし確かな喜びだった。