清太は、目の前に広がる光景に呆然と立ち尽くしていました。

 

チラシに「広々とした空間!夢のマイホーム!」と謳われていたその家は、確かに広かった。ただ、ひたすらに、広かった。

そして、ひたすらに、ボロボロだったのです。

 

外壁は色褪せ、ところどころ剥がれ落ち、蔦が這い上がって窓を覆っています。

庭は雑草が生い茂り、かつては花壇だったであろう場所は、今や得体の知れない植物の楽園と化していました。

玄関のドアを開けると、カビ臭い空気が鼻をつき、床は軋んで今にも抜け落ちそうです。

 

「これが…夢のマイホーム…?」

 

清太の頭の中には、チラシの輝かしい写真と、不動産屋の甘い言葉が走馬灯のように駆け巡ります。

 

「リフォームすれば見違えるほどになりますよ!」

「広さの割には破格の値段です!」

 

…確かに安かった。安さに目が眩んだ清太は、内見もそこそこに契約書に判を押してしまったのです。

 

今、清太の心には後悔の念しかありません。しかし、契約は契約。簡単にキャンセルできるものではありません。清太は、藁にも縋る思いで不動産屋に電話をかけました。

 

「あの…すみません、先日契約した家のことなのですが…」

 

電話口の担当者は、いつもの愛想の良い声とは打って変わって、事務的な口調で言いました。

 

「契約後のキャンセルは原則として違約金が発生します。契約書にも記載されているはずですが」

 

清太は手元にある契約書を睨みつけました。

確かに、小さな文字でびっしりと、違約金についての記述があります。その額は、清太の貯金のほとんどを失うほどの金額でした。

 

「そ、そんな…」

 

清太は絶望しました。

途方に暮れながらも、清太は諦めずにネットで

「不動産 契約 キャンセル」

と検索しました。様々な情報が溢れる中で、清太の目に留まったのは

「重要事項説明義務違反」という言葉でした。

 

重要事項説明とは、不動産取引において、契約前に物件の重要な事項を説明する義務のことです。もし、この説明が不十分だった場合、契約の取り消しを主張できる可能性があるというのです。

 

清太は、契約前のことを思い出しました。

不動産屋は、家の広さや周辺環境については熱心に説明しましたが、建物の老朽化についてはほとんど触れませんでした。

むしろ、「レトロな雰囲気が良いですね!」などと、曖昧な言葉でごまかしていたように思います。

 

清太は、再び不動産屋に電話をかけました。

今度は、先ほどとは違う、毅然とした態度で言いました。

 

「契約前に、建物の老朽化について十分な説明がなかったと思います。これは重要事項説明義務違反にあたるのではないでしょうか?」

 

電話口の担当者は、明らかに動揺した様子でした。

言葉を濁しながら、「確認してみます」と言って電話を切りました。

数日後、不動産屋から連絡がありました。

 

「今回は、当社の説明不足もあったということで、違約金なしでキャンセルに応じることにします」

 

清太は、心底ほっとしました。

長い道のりでしたが、諦めずに交渉した甲斐がありました。

 

その後、清太は慎重に物件探しをするようになりました。焦らず、しっかりと内見をし、納得のいくまで説明を聞く。今回の経験は、清太にとって大きな教訓となりました。

 

広くてボロボロの家は、清太の夢のマイホームにはなりませんでした。

しかし、そのおかげで、清太は大切なことを学んだのです。夢を叶えるためには、焦らず、しっかりと見極めることが重要なのだと。