蓑太郎は、最近どうも落ち着かなかった。
愛用のMacBook Airが、時折、充電が十分にあるにもかかわらず、起動時に「バッテリーなし」と表示されてうんともすんとも言わなくなるのだ。
何度か電源ボタンを長押ししたり、充電ケーブルを抜き差ししたりしているうちに、気まぐれのように起動することもあるのだが、いつ裏切られるかわからない不安定さに、彼はすっかり参っていた。
「またか…」
蓑太郎は、朝の支度をしながら、固まった画面を睨みつけていた。
今日は大切なプレゼンの資料を最終確認する予定だったのに。
焦燥感が募る。
彼は、何度目かの電源ボタン長押しを試みた。
すると、奇跡的に、お馴染みの起動音が鳴り響いた。ほっと胸をなでおろしながらも、蓑太郎の心には暗い影が落ちていた。
「もう限界かもしれない…」
彼は、新しいMacBook Proの価格をネットで調べていた。
最新のチップを搭載し、処理速度も格段に向上している。魅力的なスペックに心惹かれながらも、その値段を見てため息をついた。決して安い買い物ではない。
蓑太郎は、大学を卒業して今の会社に入社して三年目。仕事も覚え、少しずつ責任ある仕事を任されるようになってきた。
MacBook Airは、大学時代に購入したものだった。
レポート作成から就職活動、そして今の仕事まで、ずっと彼を支えてきてくれた相棒だ。愛着もある。しかし、この不安定な状態では、仕事に支障をきたすのは時間の問題だった。
その日の帰り道、蓑太郎は家電量販店に立ち寄った。
ずらりと並んだ最新のパソコンたち。彼は、目当てのMacBook Proの前に立った。美しいディスプレイ、滑らかなキーボード、そして何よりもその処理速度。実際に触ってみると、ますます物欲が刺激された。
「これを買えば、ストレスから解放される…」
しかし、頭の片隅で、古いMacBook Airのことが気になった。
これまで共に過ごした時間が走馬灯のように蘇る。深夜までレポートを書いた日、就職が決まった時に嬉しくて友人に電話をかけた日、初めてのプレゼンで緊張しながら資料を作成した日…。
量販店を出て、夜道を歩きながら、蓑太郎は考えた。
本当に必要なのは、最新のスペックなのか?それとも、安心して使える環境なのか?
今のMacBook Airは、確かに不安定だが、動いている時は問題なく使える。もしかしたら、バッテリーの交換やOSの再インストールで直るかもしれない。
家に帰り、彼はインターネットでMacBook Airの修理について調べ始めた。
バッテリー交換の方法、SMCリセットの手順、そしてAppleのサポートページ。丁寧に情報を集め、一つずつ試していくうちに、彼はあることに気づいた。パソコンの知識が、以前より深まっていることに。
週末、蓑太郎は思い切ってMacBook Airのバッテリー交換を自分で行った。
インターネットの情報を参考に、慎重に作業を進めた。
そして、電源を入れた瞬間、一瞬だけ画面が点灯したものの、すぐに暗転してしまった。何度か試しても、反応はない。ついに、完全に動かなくなってしまったのだ。
蓑太郎は、呆然と固まったMacBook Airを見つめていた。
これまで共に過ごした日々が、まるで砂の城のように崩れ去った気がした。彼は、静かに息を吐き出した。
「…仕方ないか」
彼は、改めて新しいMacBook Proの購入を決意した。
これまで色々な方法を試したが、結局、限界が来てしまったのだ。少しの寂しさを感じながらも、蓑太郎は新しい相棒との未来に、かすかな期待を抱いていた。
古くなったMacBook Airは、丁寧に清掃し、思い出の品として大切に保管することにした。いつか、この出来事を懐かしく振り返る日が来るだろうと、彼は思った。