「またか…」

 

和也は深い溜息をついた。

目の前のパソコンの画面が、まるで気まぐれな妖精にでも操られているかのように、またしてもブラックアウトしたのだ。

マウスを動かしても、キーボードを叩いても、漆黒の画面は沈黙を保ったまま。数秒後、何事もなかったかのように画面が復帰するのだが、その度に和也の心臓は小さく跳ね上がり、疲労感がじんわりと体を蝕んでいく。

 

和也は40代半ばの中間管理職。仕事でパソコンは必須だ。

資料作成、メールのやり取り、ウェブ会議…一日中画面とにらめっこしていると言っても過言ではない。最近頻発するこの画面消失バグのせいで、作業は中断され、集中力は途切れ、イライラだけが募っていく。

 

「そろそろ限界か…」

 

数日前から、この不具合は顕著になってきていた。最初は数時間に一度だったのが、今では数十分おきに発生する始末。重要な会議中に画面が消えた時は、冷や汗が止まらなかった。

幸い、すぐに復帰したので事なきを得たが、もしこれがプレゼンテーションの最中だったら…想像するだけでゾッとする。

 

和也はパソコンの裏側をまさぐってみた。ケーブルがきちんと接続されているかを確認する。埃が溜まっているのを見て、エアダスターで吹き飛ばしてみた。しかし、効果はなかった。

 

ネットで「パソコン 画面 消える」と検索してみたが、「グラフィックボードの不具合」「モニターの故障」「OSの不具合」など、様々な可能性が示されているだけで、決定的な解決策は見つからない。

 

「もう、専門家に見てもらうしかないか…」

 

そう思いながら、和也はデスクトップに置かれた古い写真立てに目をやった。

そこには、幼い娘と手をつないで遊園地で笑っている自分の姿があった。娘はもう高校生になり、父親と遊園地に行くような年頃ではないが、この写真を見るたびに、和也は心が安らいだ。

 

「娘の大学費用も貯めないといけないし…」

 

新しいパソコンを買うとなると、それなりの出費になる。今の生活費に加え、娘の学費を考えると、簡単にポンと出せる金額ではない。

しかし、このまま我慢して使い続けるのも限界だ。仕事に支障が出るのはもちろん、いつ重要なデータが失われるか分からないという不安を抱えながら仕事をするのは、精神的にも良くない。

 

和也は重い腰を上げ、パソコンショップのウェブサイトを開いた。

最新のパソコンのスペックや価格を眺めているうちに、ふと、昔、初めてパソコンを買った時のことを思い出した。まだワープロが主流だった時代、パソコンは高価な憧れの品だった。初めて自分のパソコンを手に入れた時の、あのワクワク感。新しい技術に触れる喜び。

 

「あの頃は、パソコンで何ができるんだろうって、夢見てたなぁ…」

 

今のパソコンは、当時のものと比べれば、性能も機能も格段に進化している。しかし、和也は今のパソコンに、昔のようなワクワク感を感じていないことに気づいた。それは、パソコンが単なる仕事道具になってしまったからかもしれない。

 

「新しいパソコンを買うのも、悪くないかもしれない…」

 

和也はそう思い直した。新しいパソコンは、単なる仕事道具ではなく、新しい可能性を秘めたツールかもしれない。新しい技術に触れることで、また新しい発見があるかもしれない。

 

和也は、いくつかの気になるパソコンをピックアップし、詳細なスペックを比較検討し始めた。娘の大学費用との兼ね合いも考えながら、どのモデルが自分にとって最適なのか、真剣に考え始めた。

画面のブラックアウトは相変わらず発生するが、和也の心は少し軽くなっていた。新しいパソコンへの期待が、不安を少しだけ和らげてくれたのだ。

 

「よし、週末にでも電気屋に行ってみるか…」

 

そう呟き、和也は再びパソコンに向き合った。画面はまたブラックアウトしたが、今度は少しだけ微笑んだ。

もうすぐ、この古くて気まぐれな相棒とはお別れだ。そして、新しい相棒との出会いが待っている。

 

そう思うと、少しだけ、心が躍った。