新しいマンションに引っ越した日、翔太はワクワクしていた。
広々とした部屋は、彼の新しい生活の幕開けを告げるにふさわしい場所だった。
しかし、その喜びも束の間、あることに気づいた。
間取り図にない一室の存在だ。
「あれ、こんなところなかったよな。図面にもなかったし」
好奇心から、翔太は戸を開けてみた。
薄暗い部屋の中には、古い家具が置かれ、埃っぽい空気が漂っていた。
そして、窓際に置かれた古い写真立てが目に入った。
そこには、穏やかな笑顔の老婦人が写っていた。
「誰だろう…」
翔太は写真を手に、マンションの管理人室を訪ねた。
管理人は、その部屋について詳しく知らなかったようだが、
「このマンションは歴史があり、以前は大家族が住んでいた」
と教えてくれた。
それから翔太は部屋に戻った。
すると、写真立ての老婦人が玄関口に立っていた。
彼女は、優しい笑顔で翔太を迎えた。
「ようこそ、わが家に。私はこの家の祖母、花子です。」
花子は、翔太にこの部屋の歴史を語り始めた。
この部屋は、かつて家族が集まって語り合い、笑いの絶えない場所だったという。
しかし、家族は一つひとつこの世を去り、花子だけが取り残されてしまったのだ。
「寂しかったのよ。でも、あなたのおかげで、またこの部屋に賑やかさが戻ってきたわ。」
花子の言葉に、翔太は温かい気持ちになった。
そして、花子には、夫や子供たちの霊も一緒に住んでいることを知った。
最初は戸惑いもあったが、翔太はすぐに幽霊家族と打ち解けた。
一緒に食事をしたり、話をしたり、まるで本当の家族のように。
特に、花子の作る料理は絶品で、翔太はすっかりその味に魅了されていた。
幽霊家族は、翔太にこのマンションの歴史や、この街の昔話をたくさん聞かせてくれた。翔太は、彼らとの触れ合いを通して、この街への愛着を深めていった。
ある日、花子は翔太に尋ねた。
「翔太くん、ずっと一人で暮らすのは寂しいでしょう?」
翔太は、花子の問いかけに少し考え込んだ。
そして、こう答えた。
「最初はそう思っていましたが、今は皆さんがいるので、全然寂しくないです。」
花子は微笑んだ。
「そうね。私たちも、翔太くんと暮らせてとても楽しいわ。」
それから、翔太は幽霊家族と一緒に、幸せな日々を送るようになった。
マンションの一室は、もはやただの部屋ではなく、彼にとってかけがえのない場所となった。
そして、翔太は気づいた。
大切なのは、一緒に過ごす時間や、心を通わせること。
幽霊だろうが人間だろうが、それは変わらない。