春の柔らかな日差しが差し込む三月。

 

優里と誠は、来週から始まる同棲生活に向けて、それぞれの部屋で引っ越しの準備に追われていた。

 

優里は淡いピンク色のエプロンをつけ、段ボール箱に丁寧に食器を詰めていた。

お気に入りのマグカップを手に取り、誠と一緒に朝食を食べる風景を想像して、思わず微笑む。

 

「朝はパン派かな、それともご飯派かな?」

 

独り言ちる。

 

「誠のことだから、休日はゆっくり寝ていたいタイプかもしれない。でも、たまには一緒に早起きして、近くのパン屋さんで焼きたてのパンを買って、ブランチなんていうのもいいな」

 

想像するだけで心が温かくなった。

 

一方、誠はというと、部屋の隅に積み上げられた漫画やゲームの山を前に、深い溜息をついていた。

 

「これ、全部持っていくのは流石にまずいよな…」

 

床にはゲームのコントローラーや雑誌が散乱し、足の踏み場もないほどだ。

 

「優里に見られたら、絶対に呆れられる…というか、引かれるかもしれない…」

と、頭を抱えた。

 

「でも、この限定版のフィギュアは…さすがに手放せない…」

 

葛藤する誠の心の中は、まるで嵐のようだった。

 

夕方、優里が誠の部屋を訪ねた。

インターホンを押し、ドアが開くと、案の定、部屋の惨状が目に飛び込んできた。

 

「進捗どう?」

 

と声をかけると、誠は苦笑いを浮かべながら振り返った。

 

「見ての通り…全然進んでない。というか、どこから手を付けたらいいのか…正直、途方に暮れてるんだ…」

 

部屋の惨状を見た優里は、一瞬言葉を失ったが、すぐにいつもの笑顔を取り戻し、笑ってしまった。

 

「これは…なかなか手強いね。まるで、宝の山みたい」

 

そう言いながらも、優里は袖をまくり上げた。

 

「手伝ってあげようか?一人で抱え込んでても埒が明かないでしょ?それに、このままじゃ、引っ越し当日までに終わらないよ?」

 

「本当に?助かる…」

 

誠は心底ほっとした表情を見せた。

 

「実は、優里に手伝ってもらおうと思って、連絡しようとしてたんだ。でも、こんな散らかった部屋を見せるのが、ちょっと恥ずかしくて…」

 

「何を言ってるの?私たちはこれから一緒に住むんだから、そんなこと気にしなくていいんだよ」

 

優里は優しく微笑んだ。

 

「さあ、どこから始めようか?まずは、この漫画の山から片付けようか?」

 

「お願い…」

 

誠は情けない声で言った。

 

「実は、どの漫画を処分するか、全く決められなくて…」

「じゃあ、一緒に選ぼう。懐かしい話でもしながら」

 

優里はそう言って、誠の横に座り込んだ。

 

二人は一緒に荷造りを始めた。

優里は手際よく物を整理し、不要なものを分別していく。

 

「これ、まだ持ってたんだ?懐かしい!」

 

優里が古いゲームの攻略本を見つけて言った。

 

「昔、よく一緒にやったよね?」

「ああ、そうだった!あのゲーム、徹夜でやったこともあったな」

誠も懐かしそうに答えた。

 

「優里はいつも上手だったから、頼りにしてたんだ」

「そんなことないよ。誠だって、結構上手だったじゃない」

 

二人は昔話に花を咲かせながら、作業を進めていった。

 

夜になり、大体の荷造りを終えた二人は、近くのレストランで夕食をとることにした。窓際の席に座り、夜景を眺めながら、食事を楽しんだ。

 

「今日は本当にありがとう。一人だったら、まだ何も終わってなかったと思う」

 

誠は優里に感謝の言葉を述べた。

 

「どういたしまして。私たち、これから家族になるんだから、困った時は助け合うのは当然だよ」

 

優里は微笑んだ。

 

食事中、優里はふと誠に尋ねた。

 

「ねえ、誠はこれから一緒に住むの、どう思ってる?正直な気持ちを聞かせてほしいな」

 

誠は少し照れながら答えた。

 

「もちろん、すごく楽しみだよ。優里とずっと一緒にいられるんだから」

 

その後少し間をおいて話した。

 

「でも…やっぱり、不安もあるんだ。優里は綺麗好きだし、僕はだらしないところがあるから…迷惑かけないかなって」

 

「それは否定できないね」

 

頬杖つきながら笑顔で微笑む。

 

「それに、今まで一人暮らしだったから、誰かと一緒に生活するっていうのが、まだ想像できなくて…うまくやっていけるかなって、心配なんだ」

 

優里は誠の手を握りしめた。

 

「大丈夫だよ。お互いに助け合って、楽しい生活を送ろう」

 

優里は一呼吸置いて、誠の目をじっと見つめた。

 

「それに、誠のそういうところも、私は知ってるし、それも含めて誠だから、私は好きなんだよ」

 

優里の言葉に、誠の顔が赤くなった。

 

「生活習慣の違いは、これから二人で話し合って、うまく折り合いをつけていけばいいんだよ。大切なのは、お互いを思いやる気持ちだから。それに、もし何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってね。私もそうするから」

 

「ありがとう…優里…」

 

誠は優里の手を握り返した。

 

「そう言ってくれて、本当に安心したよ」

 

二人は手をつなぎ、夜道をゆっくりと歩いた。街の灯りが、二人の未来を照らしているようだった。