今年16作品目となる日本映画は、アニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』です。

 

1981年に講談社から出版され発行部数は全世界で2500万部を記録した、黒柳徹子の自伝的小説をアニメ化しています。

 

今年の日本アカデミー賞では、優秀アニメーション作品賞を受賞しました。

 

U-NEXTでポイント視聴が開始されたので、550ポイントを使用して視聴です。

 

『窓ぎわのトットちゃん』

2023年12月8日 1時間54分

配給 東宝 制作 シンエイ動画

監督 八鍬新之介  脚本 八鍬新之介、鈴木洋介

原作 黒柳徹子「窓際のトットちゃん」

主題歌 あいみょん「あのね」

出演 大野りりあな、役所広司、小栗旬、杏、滝沢カレン

評価 3.5

 

 

黒柳徹子さんの自伝的エッセイ「窓際のトットちゃん」が発売された当時は、久米宏さんと黒柳徹子さん司会の「ザ・ベストテン」という音楽番組が全盛期の頃でした。

 

日本でも大ベストセラー小説となりましたが、私はこの本を読んだことがありません。

 

本は読んでいなくても、黒柳徹子さんが出演している番組を通して「トモエ学園」という存在や、校長先生のエピソードなどは知っていました。

 

この映画を見て始めに思ったのは、昭和15年頃の東京の豊かさと、トットちゃんの家の裕福さでした。

 

私が育った昭和40年代の幼少期の生活レベルを遥かに超えています。

 

小1で小学校を退学させられるのも衝撃的だったし、この時代から小学1年生が一人で電車通学しているのにも驚かされました。

 

トットちゃんが転校した学校は「トモエ学園」という、こどもの個性や自由さを大切にした教育方針の学校です。

 

これは大正デモクラシーの流れによる「大正自由主義教育」や「モンテッソーリ教育」などがその基本となっているそうです。

 

そういう教育を受けてこなかった自分にとって、一番驚いたのはこのシーンでした。

 

担任の大石先生が「いつか高橋君にも尻尾が生えてくるかもしれませんよ。」と生徒に言った冗談を、小林校長先生が厳しく叱責するのです。

 

「そんなことを言われた高橋君の精神的ショックを考えなかったのか。」

 

この学園や教育方針を否定しているわけではないですが、私が感じたのはただ単に世界が違うという驚きだけでした。

 

とにかくこの映画、特筆すべきは映像の素晴らしさとその演出です。

 

まずトモエ学園の一人一人の生徒の描き方がとても丁寧です。

 

その他大勢ではなく、生徒の個性を大切にしっかりと描いているのが伝わってきます。

 

それから後半では戦争の迫りくる恐怖とその実態を、言葉ではなく映像として表現しています。

 

銀座の街を闊歩する婦人会の行進、いつの間にか女性に変わっていた駅の切符切り、泣きながら走り回るトットちゃんが次々と目にする戦争の傷を負った人々の姿。

 

そして映画の最初と最後に登場する「チンドン屋」の存在です。

 

そもそもトットちゃんが窓際に座っていたのは、チンドン屋を見つけて学校に招き入れるためでした。

 

そのせいで小学校を退学されられるのですが、それが最後にはいるはずのない東北の山の中に出現します。

 

この演出は心打たれますね。

 

制作人がこの小説をアニメ化したかった理由が、実際に映像を見て理解できたような気がしました。

 

最後に黒柳徹子さんの「ザ・ベストテン」でこんなエピソードがあったことをご紹介しておきます。

 

どこかのロケ地でシャネルズが出演した際、生放送で見に来ていた一般の若者にインタビューをしたのです。

 

その若者が「黒人のくせに」という言葉を発した後、黒柳さんの顔色が変わり、番組の最後に怒りに震えながらこう発言していました。

 

「差別のつもりでそう言ったのではないのはわかっていますが、人を肌の色で判断することを私はどうしても許せません。」

 

劇中に泰明ちゃんがトットちゃんに貸した黒人奴隷の本「アンクル・トムズ・ケビン」の表紙を見たとき、私はそんなことを思い出していました。

 

評価は3.5です。

 

映画『窓ぎわのトットちゃん』 - 109シネマズ | 109CINEMAS