第45話 長男の結婚式

 

あれは私が「劇団ひまわり」を退所したばかりの22歳の頃でした。

 

私の4つ上の長男が、26歳で結婚をすることになったのです。

 

お相手は同じ会社の人で同い年の人でした。

 

眼鏡をかけており、とても真面目そうな女性でした。

 

結婚式を総和町(現在は古河市に吸収)の結婚式場でやることになり、当然弟である私も参列します。

 

結婚式が終わり、後は披露宴を残すのみです。

 

すると長男が私の所へ寄ってきて、こう言ったのです。

 

「披露宴の家族紹介では、お前は俳優ということになってるからな。」

 

私はすでに劇団を退所しており、俳優の道は諦めていましたが、長男が見栄を張りたかったのでしょう。

 

まあ仕方ないここは兄貴の一世一代の結婚式、顔をたててやろうと私は協力することにしました。

 

 

しかし、それが予想と違った紹介のされ方だったのです。

 

司会者が私の家族を順番に紹介していきます。

 

最後に末っ子の私の番になり、司会者がこう言ったのです。

 

「現在、東京で俳優としていくつかテレビや映画にも出演している〇〇さんです!」

 

会場から「オー!」という歓声が上がりました。

 

「オイオイ、自分はエキストラでしかテレビに出たことないぞ。」

 

と心の中で思いましたが、すでに後の祭りです。

 

そこから私の周りには代わる代わる人がやってきて、一緒に写真を撮ったり、握手を求められたりしました。

 

どうせ今のように再放送がない限りドラマは見るツールもなかったし、適当なドラマ名で適当な役名で出演していたと嘘をつきそこはごまかしました。

 

 

まあそれよりも、私は披露宴会場のテーブルで久しぶりに父と母とゆっくり話しをすることができたのです。

 

俳優は諦めたけど、これからも東京で頑張っていくつもりだと伝え、私は母にこういう質問をしました。

 

「今度東京に連れて行くから、行きたいところある?」

 

母はこう答えました。

 

「行きたいところはないけど、テレビでやってる歌謡ショーを生で見てみたい。」

 

「わかった、でもあれはハガキとかで応募して当選しないと行けないから、当たったら必ず連れてくよ。」

 

「楽しみにしてる。」

 

「絶対連れて行くから、それまで待っててね。」

この会話をした時は、私が22歳で母はまだ52歳でした。

 

しかし、ここからわずかに1年後でした。

 

母は病に倒れることになってしまうのです。

 

次回より、母と私の別れの物語を最終章としてお送りします。

 

第46話「父からの一本の電話」へつづく。