第41話 国家公務員試験

 

高校3年生の秋を迎え、私は就職組にいました。

 

私が通っていた下妻第一高等学校は、県内でも有数の進学校だったので、生徒のほとんどが大学へと進学します。

 

中には東大を目指す生徒までいて、私と同学年で現役で合格した者もいました。

 

私といえば、そろそろ本格的に東京での就職先を見つけなければなりません。

 

そんな中、担任の先生からこんな提案があったのです。

 

「国家公務員の初級試験があるから、ダメ元で受けて見たら?」

 

毎年9月になると行われる国家公務員一般職の試験は、合格すると高卒でも行政官庁で働けるというものでした。

 

「合格倍率20倍だけど(笑)。」

 

 

「それを先に言え!」

 

と心の中で思いましたが、受験料は無料なので受けるだけ受けてみようと、試験前に過去問集を何冊かやりました。

 

久しぶりに家でも一生懸命勉強しましたが、その甲斐あって何と私はこの公務員試験に合格してしまったのです。

 

担任の先生はすごく驚いていました。

 

「お前も勉強すりゃ、成績だって上がるのにな。」

 

元々初級公務員試験には数学や英語もないし、一般教養にはそれなりに自信がありました。

 

そして国語や歴史や経済が元々得意だったということもあります。

 

この初級公務員試験に合格すると、冬の間に各官庁から入庁面接の依頼が来ます。

 

黙っていても東京の各官庁から面接の要請が来るのですから、こんな楽な就職活動はありません。

 

大蔵省から特許庁まで色々なところから通知が来て、私は何度か東京へと面接に出かけましたが、これがことごとく落ちまくるのです。

 

リーゼントだった頭髪も真っすぐに直し、きちんとした制服を着て面接に行きましたが、なぜか合格できませんでした。

 

その原因を指摘してくれたのが、何と新橋で出会った刑事さんだったのです。

 

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私が乗り換えの切符を新橋駅で買おうとした時に、いきなり横から警察手帳を見せられて、刑事さんがこう質問してきました。

 

「こんな時間に何してんの?」

 

平日の昼間に学生服でうろついているのですから、声をかけられても当然です。

 

「公務員試験の面接に来ました。」

 

と私が答えると、

 

「その学生カバン持ってちゃ、面接受からないよ。」

 

と言われたのです。

 

私の学生カバンには、当時のツッパリの代名詞でもあった「E.YAZAWA」の大きなシールが貼られていました。

 

これが原因かとそこで初めて気がついて、次回の面接からはシールを剥がして臨んだのです。

 

そしてすぐに決まったのが、文部省管轄の大学病院でした。

 

私には、国家公務員になるという大きな肩書ができました。

 

特に仕事の内容は何でも良かったのですが、公務員という安定した職業につくということで、父も母も安心して東京へ送り出してくれます。

 

こうして私は高校を卒業し、ついに東京へと旅立つ日がやってきたのです。

 

第42話「サライの空へ」へつづく。