第32話 卒業式と答辞
「八千代第一中学校」で過ごした3年間も、ついに卒業の日を迎えました。
そしてこの卒業式が、正に私のワンマンショーだったのです。
卒業生の入場は、在校生の手拍子に迎えられながら、3年1組の出席番号1番から体育館へと入場していきます。
私は3年1組で、出席番号が1番でした。
卒業生の親御さん、先生たち、在校生が最初に見る顔が私なのです。
卒業式が始まり、国家と校歌を歌い来賓の挨拶があって「卒業証書授与式」となります。
この卒業証書授与式も、3年1組の出席番号1番から受け取ることになります。
私が一番で壇上に進み、目の前で校長先生が卒業証書の全文を読み上げます。
次の人からは「以下同文」で省略されてしまうので、きちんと読んでから渡してくれるのは最初の一人だけなのです。
これだけでも十分目立つ存在ですが、もっと極めつけがありました。
卒業式のメインイベントでもある「答辞」を読んだのがこの私だったのです。
成績も常に学年で上位を争い、テニス部のキャプテンや学級委員もこなしてきた私に、学年主任の先生から指名が入りました。
おそらく端正な顔もあったのでしょう(違うか)。
中学校の卒業式の答辞といえば、TBSドラマ「3年B組金八先生」が思い出されます。
毎回シリーズの誰が答辞を読むのか、それも話題になっていました。
普通答辞というものは、舞台に上がって校長先生に向かって読み上げるものですが、私たちの学校では違っていました。
私たちの答辞は、参列してくださっている親御さんたちに向けて行うのです。
体育館の真ん中に小さいステージが設けられ、卒業生全員が立ち上がって後ろを向いてから答辞が始まります。
私は親御さんたちの顔を見ながらなるべく話そうとしていたので、途中で母の姿を見つけてしまいました。
その瞬間、込み上げるものが湧いてきて、涙が出そうになったのです。
しかしそこはグッとこらえ、最後まで親御さんたちに対する感謝の気持ちをしっかりと伝えて答辞は終了しました。
卒業式が終わり、卒業生が退場していくのも3年1組の出席番号1番からです。
在校生たちが作る花道を、私が先頭で歩いて体育館を後にしていきます。
「これじゃまるで、私のための卒業式だな。」と内心で思っていました。
卒業式が終わると、恒例の学生服のボタン渡しが始まります。
私の第2ボタンは為末さんに早々に取られ、私は下級生にもそれなりに人気があったので、あっという間にすべてが完売していました。
家へ帰ると、父が卒業式の模様を有線放送で聞いていたようでした。
当時の田舎の黒電話は町内の有線放送と直結しており、中学校の卒業式などのイベントはライブ中継されるのです。
父は私の答辞をしっかり聞いていたようで、
「途中で泣きそうになったろ?」
と茶化していました。
母は、私にこう言っていました。
「ちょっと目立ちすぎてたね。お前の卒業式みたいだったよ。」
イヤ、俺の卒業式なことには間違いない。
こうして派手な中学最期を飾った私は、ついに高校へと進学することになるのです。
ここから私の歯車は、確実に壊れていくことになりました。
第33話「高校入学と応援団」へつづく。