第24話 目医者とホットケーキ
約1週間ぶりに「私とオカンと時々オトン」シリーズの再開です。
さて、現在では目医者とは言わず「眼科医院」と言いますね。
当時の呼称は「目医者」でした。
あれは忘れもしない、私がまだ中学1年生の1学期のことです。
1学期はまだ、兄を含む3年生もテニス部に在籍しています。
八千代第一中学校にはテニスグラウンドが3面あり、その内の2面は部員数が圧倒的に多い女子テニス部が使用し、男子テニス部は1面だけを使っていました。
テニスコートはセメントやアスファルトではなく、当然土のクレーコートと呼ばれるものです。
そのため練習の開始前は、毎回ラインカーを使ってパウダーで白い線を引き、ラインを書く必要がありました。
その時は私がそのラインカーを引いていましたが、中で詰まったのか途中で粉が出て来なくなり、線が引けなくなりました。
その様子を見ていた3年生の磯山さんが私の所へ寄ってきて、
「粉が詰まった時はこうするんだよ。」
と言って蓋の開いたままのラインカーを、私の目の前で思い切り上下に振ったのです。
その瞬間でした。
中に入っていた大量の白い粉が外に飛び出し、中を覗き込んでいた私の顔を直撃したのです。
口の中にまで粉が入り、私は呼吸も出来ず、目も開けられませんでした。
誰かが急いで濡れたタオルを持ってきて顔を拭き取ってもらい、背中を叩かれて何とか呼吸はできるようになりました。
しかし、目が開きません。
私は怒りが込み上げてきて、相手が3年生だということも構わずに、
「何で目の前でやるんだよー!」
と怒鳴りました。
私は水飲み場の水道に連れていかれ、そこで流水で目を洗い流しました。
何とか視界が開けてきましたが、まだ目の前は白く濁ってうっすら見える程度です。
顧問の先生と一緒に、私は隣町の下妻市の目医者に連れて行かれました。
そこでものすごく痛い洗浄液みたいなものを目に入れられ大変な思いをしましたが、すぐには完治しないということで何度か通院するように言われたのです。
私は目医者での目の洗浄を受けるのは二度とごめんだと思い、
「やだ、もう目医者には行きたくない!」
と、母親に駄々をこねました。
「行かないと治らないんだよ。」
と母になだめられましたが、私は処方してもらった目薬で治すからいいと抵抗したのです。
すると母は、
「帰りにカスミストアーで美味しい物でも食べようか。」
と誘惑の一言を放ったのです。
私が通った目医者は下妻市にあって、下妻市と言えば2004年の映画「下妻物語」が有名です。
この映画では下妻市の人気スポットとして「ジャスコ」が紹介されていましたが、当時はまだそのジャスコすらなく「カスミストアー」があるだけでした。
私はそこで初めて、喫茶店というものに入ったのです。
喫茶店と言っても、今でいうフードコートのようなもので窓などもありません。
私はそこで初めて「ホットケーキ」というものを注文してみました。
今でいうパンケーキのことですが、大きなホットケーキが2枚重ねになっていて、上にバターとメイプルシロップがかかっています。
それを口に入れた瞬間でした。
あの衝撃はいまだに忘れていません。
「こんな美味いものが、この世の中にあったのか!」
12歳の少年は、感動に打ち震えていました。
私の田舎町には喫茶店みたいなものもなかったし(探せばあったのか?)、こんな洋風の物を食べられる場所などどこにもなかったのです。
そして一緒に頼んだドリンクが「アイスメロンソーダ」でした。
シュワッシュワのメロンソーダの上に、バニラアイスが乗っています。
そして初めて口にした添え付けのチェリーにも感激です。
ホットケーキとアイスメロンソーダ、この最強にして最高の組み合わせに私は目の痛みなどどこへやらになっていました。
目を怪我したおかげでこれを食べられたことに、むしろ感謝の念すら感じていたものです。
第25話「家の改築」へつづく。