第16話 兄弟喧嘩と夏のスイカ

 

私たち兄弟は、父と母がよほど計画性が高かったのか、2歳ずつ年が離れていました。

 

それなので、長男から三男の私までの年齢差はわずか4歳です。

 

こうなると、兄弟喧嘩は日常茶飯事です。

 

姉が結婚して家を出ていく前は、姉に気を使って兄弟喧嘩は控えていたものです。

 

しかし姉がいなくなると誰も私たちの喧嘩を止める人がいなくなり、暇さえあれば言い争いやこづきあいをしていました。

 

私の父はすごく短気な性格だったので、私たちが兄弟喧嘩を始めるとすぐに鉄拳制裁が飛んできます。

 

それなので、父の前では私たちは喧嘩はしないように決めていたのです。

 

この頃の喧嘩といっても、所詮は他愛ない理由でいわばじゃれっこみたいなものです。

 

殴り合いをするとか、取っ組み合いの喧嘩をするとかではありませんでした。

 

ただ大きな声で言い合ったり、決して譲らなかったり、体を押す程度だったのです。

そんな夏のある日のことでした。

 

おそらく私が小学4年生、次男が小学6年生、長男が中学2年生の頃だったと思います。

 

夏休みだったのか3人とも家にいて、畑仕事で家に両親がいないのをいいことに、私たち3人はいつものよう言い争いの喧嘩を始めました。

 

大体いつも長男VS次男で喧嘩が始まり、そこに私がどちらかの味方に付くという構図ですね。

 

大声で何かを言い争っている最中、突然父と母が帰ってきたのです。

 

玄関の扉がいきなりガラっと開いて、母を先頭に父が大きな取れたてのスイカを肩に担いで、家の中に入ってきました。

 

そのまま裏の井戸へ行って、スイカを冷やそうと思ったのでしょう。

 

そこに次男が、何を思ったのか母にこう叫んだのです。

 

「○○が、また俺の○○を取った~!」

 

その瞬間でした。

 

父は、肩に担いでいた大きなスイカをいきなり次男めがけて投げつけてきたのです。

 

「全く、いつもいつも喧嘩ばかりしやがって!」

 

おそらく、すでに家の外から大きく怒鳴り合っている私たちの声が耳に入っていたのでしょう。

 

次男の一言でプチっと何かが切れ、持っていたスイカを投げつけたのだと思います。

 

スイカはとてつもなく大きいので、小学校6年生の次男の体に命中した後、畳の床に落ちて割れてしまいました。

 

私は痛さで床にうずくまった次男をよそに、こんな心配をしていました。

 

「あ~あ、これじゃもうスイカ冷やせない。」

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スイカは大きなまま井戸水が溜まったタルイに入れ、上から冷たい水を流しながらゆっくりと冷やしていくのです。

 

割れてしまっては、もうそのまま食べるしかありません。

 

父も短気なので咄嗟に出た行動でしたが、次男がスイカを受け止めるとでも思ったのでしょうか?

 

いくら運動神経がいい次男でも、さすがにあんなに重たい物をいきなり投げつけられたら、受け止めきれるわけがありません。

 

しばらく泣いていた次男でしたが、私たちが割れたスイカを食べ始めたので、泣きながらそれに参加していました。

 

私たちは畑の手伝いで形の悪すぎるスイカを割って食べることは多々ありましたが、なかなか形の良い良質なスイカを食べる機会はなかったのです。

 

父の肩に乗っていた大きなスイカは、間違いなく良質な形のスイカだったので、冷やして食べたかったよな~と兄弟三人で慰め合いました。

 

第17話「兄弟喧嘩その2」へつづく。