第8話 授業参観

 

小学校の授業参観というものは、毎年3回くらい行われるのが一般的です。

 

私の両親は2人とも専業農家なので、平日は畑仕事があり、雨でも降らない限りはこの授業参観にはほとんど顔を出しませんでした。

 

私の姉と兄は学校の成績が良くなかったので、先生との面談でもない限りは、ほとんど行かなかったそうです。

 

しかし、私が小学生になってからは違っていました。

 

母は私の授業参観だけは、毎回必ず顔を出していたのです。

 

私の授業を中心に見て、ついでに長男と次男の教室も覗いていくみたいな感じだったそうです。

 

それは私への期待が高かったことと、賢い我が子を見て良い気分になりたかったからだと、後日母が言っていたのを覚えています。

 

せっかく我が子の授業を見に行くのですから、手を挙げて発言もしない兄たちの姿を見るよりいいですからね。

 

 

この授業参観で一番印象に残っているのは、私が小学校2年生の時でした。

 

その日は算数の授業で「掛け算」を習っていました。

 

黒板に先生が大きくこんな問題を書いてたと記憶しています。

 

りんご × 4個買う = 4個

鉛筆 × 1ダース買う = 12本

タイヤ × 2台の車を交換する = 8本

 

このようないくつかの問題を問いた後、授業の最後に先生はみんなにこう質問をしました。

 

「この並んでいる計算式の、共通点がわかる人?」

 

私は頭が良かったのですぐに答えが閃きましたが、この授業ではすでにいくつか活躍をしていたので、最後は他の子に譲ろうと子どもながらに忖度して手を挙げませんでした。

 

しかし他の誰も手を挙げないし、しびれを切らした先生がこう言い出しました。

 

「これわからないと授業終われないよ、お昼休み短くなっちゃうよ。」

 

小学2年生にとって、給食とお昼休みは一日の最大の楽しみです。

 

貧乏暮らしの私には、何より給食が一番の楽しみだったので、それを聞いてすぐに手を挙げました。

 

「答えが、必ず最初の物の総数になることです。」

 

単純至極な答えですが、掛け算を習い始めた小学2年生にとっては難しい質問です。

 

「お~その通り!みんな、しげ〇に拍手だ!」

 

答えがわからなかった親御さんも沢山いたのか、教室は感嘆とざわめきが起こっていました。

 

掛け算というものは、物の総数を導き出すものだと教科書に書いてあったので、先生の意図していることが私には察知できました。

 

先生はこの質問を授業の最後に持ってくる構成で、ためになる授業だと親御さんにアピールしたかったのかどうかはわかりません。

 

専門家が伝える、かけ算で大切なのは「量」[意味がわかるとおもしろい!] さん

 

この日の授業参観は、この後の給食を親子で食べるというものでした。

 

だからよく覚えているのかもしれません。

 

家族が多い私にとっては、母と2人で食事する機会などほとんどなかったからです。

 

私の頭の良さを目の当たりにした母は、すごく誇らしげで嬉しそうでした。

 

そして興奮した母が言った一言を、今でもハッキリと覚えているのです。

 

「お前、将来は医者になれ!」

 

この当時の花形職業といえば、やはりお医者さまでした。

 

近所にもお爺ちゃんがやっている小さな内科医院しかなかったし、母は自分の老後のためにも息子に医者になって欲しかったのかもしれません。

 

しかし、冷静な私はこういうことを考えていました。

 

「医者になるまでには結構なお金がかかること、母ちゃんは知らないのかな?」

 

兄弟の多い貧しい農家暮らしの家庭では、そんな費用など捻出できるわけがないと、7歳の私はすでにどこかで悟っていたのかもしれません。

 

第9話「大阪万博」につづく。

 

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