第27話 クレオパトラか楊貴妃か!

 

私は中学2年生へと進級しました。

 

2年生の担任の先生は国語の「山口先生」で、そのあだ名は「忍者先生」でした。

 

頭の前から後ろまでハゲているのですが、両サイドに髪が残っており、その姿は忍者というより落ち武者でした。

 

先生から落ち武者だけは勘弁してくれという要望があり、本人が忍術が好きだというので、結果的に忍者先生と呼ばれるようになりました。

 

ある日のこと、先生から「私の両親」という題材で作文の宿題が出されました。

 

私がすぐに思い浮かんだのは、ある1枚の写真のことでした。

 

ちょうど1年くらい前に私の家の改築があり、押し入れを整理していたら、白黒の1枚の写真が発見されたのです。

 

そこには私の母がまだ女学生時代だろうと思われる、若き日の姿が写っていました。

 

母の実家は大工をしていて結構裕福だったので、当時では珍しい単独の写真を撮ったのでしょう。

 

その写真を見て、私は驚愕しました。

 

その女学生は、ものすごく痩せていて、ものすごく美人だったからです。

 

私の口から出た最初の一言がこれでした。

 

 

「まるでクレオパトラか楊貴妃じゃん!」

 

実際にクレオパトラも楊貴妃も写真すらあまり見たことがなかったですが、美女を形容する言葉がこれしか浮かばなかったのです。

 

当時からすでにふっくらとしていた母の姿とこの写真を見比べ、子どもを5人も産んだらこうなってしまうかと内心思ったものでした。

 

母は目がパッチリとしていて顔も整っていたので、痩せていれば綺麗なんだろうなと前から思っていました。

 

私はこの衝撃の出来事を作文に書いてみることにしました。

 

若い時はこんなに美人だった母が、今では物干し竿を抱えて子供たちの喧嘩を仲裁する姿に変わってしまったことを嘆き悲しむ作文です。

 

題名は「私の母」としました。

 

作文の書き方を中学生向けに例文つきで解説! | ミライ科 - 進研ゼミ中学講座ブログ さん

 

そしてホームルームの時間、山口先生は提出された作文を全部読み終えたらしく、自分で勝手に創設した「山口賞」なるものをみんなの前で発表しました。

 

国語の先生なので、芥川賞や直木賞を気取りたかったのでしょう。

 

少し予想はしていましたが、やはり山口賞には私の作文が選ばれました。

 

特に先生は「クレオパトラか楊貴妃か!」というフレーズがとても気に入ったらしく、物干し竿のエピソードも笑いながら皆の前で作文を読み上げていました。

 

そこから私は例によって山口先生にも気に入られるようになり、クラスのまとめ役とか何かと頼られるシーンが増えていいくことになるのです。

 

作文もコンクールに出すとかいう目的でない以上、あまり目立たないようにしておくべきかなとも思ったものでした。

 

第28話「初めての海水浴」へつづく。

 

落ち武者

山口先生イメージ