第15話 安否確認システム
東日本大震災の発生を受け、日本の企業は一斉に「BCP(事業継続計画)」の策定と整備に乗り出しました。
BCPとは何かというと「災害などの緊急事態が発生した場合に備えた企業や団体の事業継続計画」のことです。
これは元々2001年9月に米国で起きた同時多発テロにより、アメリカの企業で策定されるようになりました。
それがこの東日本大震災が発生した際に、何の備えもしていなかった日本の企業も一斉に取り組みを開始するようになったのです。
当社でも、総務部を中心にBCPの策定に取り組み始め、最初に着手したのが「安否確認システム」というものでした。
これまで地震や台風、水害などが発生した場合に行う安否確認は、所属長が電話かメールで社員に連絡するのが一般的でした。
しかし、東日本大震災が起きた時は、とにかくこの電話とメールが一切繋がらなかったのです。
今では当たり前に皆が使用している『LINE』というアプリは、サービスが開始されたのは2011年の6月、東日本大震災が起こる後のことです。
それまではNTTが「災害用伝言ダイヤル」というものを提供していましたが、使い方が今一つ不透明であまり浸透はしていませんでした。
当グループ会社では、アルバイトを含めると全部で2,500人くらいの従業員がいるので、誰もが簡単に安否報告をできるシステムを探しました。
そして導入したのが「セコム安否確認サービス」というものです。
このシステムは、震度4以上の地震が関東圏内で起きると自動的にメールが各自の携帯電話に届き、その場で安否の報告ができるというものです。
本人の安否や家族の安否、家屋の状況や出社できるかどうかまでワンタッチで報告が可能です。
登録は各社の各部署、事業所単位で行っているので、所属長は自分の部署の従業員の安否が一目で全員分わかるようになっているのです。
このシステムのスタート当初は、まず全従業員に周知させることが一苦労でした。
このシステムを認知してもらうため、毎月1回災害訓練と称して安否報告メールを流します。
メールアドレスとかがきちんと登録できていないとダメなので、その不具合を全従業員分解消するのが本当に大変な作業でした。
時にはこのシステムと防災の意識を高めようと、野球の観戦チケットの応募に使ったり、防災クイズを出して景品を出したりしていたものです。
こうやって少しずつ認知が広がり、今では従業員が入社するとすぐにサービスの登録をすませ、いつ災害が起きてもすぐに報告ができる体制が整っています。
この10年の間にも、震度4以上の地震や台風などの災害はありましたが、本当に安否の確認が必要な大災害は関東では起きていません。
先般の能登半島地震では、関東は軒並み震度2か3だったのです。私の体感だけ震度4でした。
願わくばあと10年は本格的に使用する日が来ないよう祈るばかりですが、こればかりはいつ起きても不思議ではありません。
第16話「防災訓練」へつづく。