黒澤映画特集第8作は、東宝争議で東宝を脱退した黒澤監督が初めて他社で映画を製作した『静かなる決闘』です。

 

第8作『静かなる決闘

1949年3月13日公開 

製作:大映(1) 1時間35分

脚本:黒澤明(7)、谷口千吉(1)

原作:菊田一夫(堕胎医)

出演:三船敏郎(2)、喬(7)、中北千枝子(3)、千石規子(2)

評価 2.5

 

 

黒澤監督が所属する東宝は、第3次東宝争議によって映画撮影が困難になっており、他社(大映)で製作を行った最初の作品である。

 

人に歴史ありとはよく言うが、黒澤映画を初期から見直さなければ知らなかったことである。

 

そして今作は前作「酔いどれ天使」で好演した三船敏郎が単独の主役、しかも前作はやくざだったのに今作では青年医師という180度違う役柄だ。

 

その青年医師、藤崎恭二の父親で産婦人科医に志村喬、こちらは2作続けてお医者さんの役である。

 

物語は、戦時中の野戦病院で働く藤崎医師が、梅毒に感染している患者の中田を手術中に、自分も感染してしまう。

 

藤崎には婚約者の美佐緒(三条美紀)がいたが、梅毒のことを話せず距離を置くしかなかった。

 

ある日、梅毒を感染させた患者の中田(植村兼二郎)と出会うが、彼は治療もせずに結婚し、妻に妊娠までさせていた。

 

藤崎は怒り心頭するが、中田は結局死産で生まれてきた赤ん坊を見て、その場に崩れ落ちる。

 

この中田の妻、多樹子を演じたのが3作連続出演の中北千枝子だった。

 

 

そして今作の千石規子は、重要な役どころである峰岸るいを演じた。

 

るいは元ダンサーで、暗い過去を持ち、彼氏とはすでに別れていたがその子供を妊娠していた。

 

るいは、藤崎医師の日頃の誠実すぎる行動と発言に少なからず反感を抱いていたが、梅毒に感染していることを知るとそのわだかまりが解け、人間的に少しずつ成長していく。

 

最後は病院の看護婦になることを目指し、立派な赤ちゃんも出産して一人で育てる。

 

このるいを見ていると、この映画のテーマはやはり戦後の日本の復興にあるのではないかと思う。

 

感染症という脅威が戦争で、それによって残る深い傷跡は戦後の日本そのものを象徴している。

 

しかし、だからといってうつ向いてばかりいては何も始まらないし、何も変わらない。  

 

るいと赤ちゃんを死産させた多樹子が、病室の中で語る「前を向いて行かなくちゃ」のセリフに、戦後の復興を目指す大きなメッセージが託されているような気がした。

 

なかなかショッキングな内容の映画だったが、ただ今回の三船敏郎は誠実な青年医師の役なので、固いセリフが多かった。

 

やくざや武士みたいに大声を張り上げていれば目立たないのだが、こういう舞台口調の長ゼリフはちょっと厳しいものがあった。

 

もう少し三船敏郎のセリフ回しが上手かったら評価は上がったが、2.5止まりです。