(はじめてこのブログをご覧になる方は、第1話 よりお読みください。)


第112話 押し付け


ビールに飽きて、涼子は店員に声をかけ、梅酒ロックを
注文した。

「ねえ、知ってる? もっとも大人が若い人にしては
いけないことって。」

「なんですか?」

「自分の成功体験を押し付けることよ。」

涼子は、梅酒ロックを一口飲んで、グラスの中の
氷を見つめた。

「成功している人が成功体験を語るのはいいこと
ではないんですか?」

志保子は、涼子を元気づけようとそう言った。

「確かに悪くないわね。でもね、押し付けるのは
悪いことね。人それぞれ成功パターンが違うのよ。」

「成功パターンが違う。」

「そう。それに成功の定義もそれぞれ違うの。だからあの子に・・・」


続く・・・・・・





(はじめてこのブログをご覧になる方は、第1話 よりお読みください。)


第111話 スカリーの秘密



志保子が浅井のオフィスに就職して1ヶ月が経とうと
していた。

豆腐料理がメインの隠れ家的な居酒屋・・・

そこには、志保子と副所長の涼子が、花の金曜日を
ビール片手に迎えていた。

「スカリーさん、今のオフィスに来られる前は、
いったいどんな仕事をされていたんですか?」

少しほろ酔い気味になったころ、志保子が尋ねた。


「若年者の就職をサポートする公共の就職相談所よ。
東京にいたの。」

「へえ~。やっぱり今の仕事と同じようなカウンセラー
だったんです?」

「まあね。これでも、20人いたカウンセラーのうち、ダン
トツの就職率だったのよ。」

「昔からキャリアウーマンだったんですね。」

「でも、正直、あの頃は勘違いをしていたのよ。」

「勘違い?」

「今思い出してもゾッとするけど、あのときアーサーに
出会わなかったら、多くの若者を不幸にしていたわ・・・。」

涼子は、遠い目をして言った。

「あの・・・」

志保子は、触れてはいけないものに触れた気がして、
涼子に言葉をかけようとしたが、うまく言えなかった。

「いえ、いいのよ。もう過去のことなの・・・。聞きたい?」

続く・・・・・・

(はじめてこのブログをご覧になる方は、第1話 よりお読みください。)


第110話 カウンセリング終了


「ありがとう。では、これで6週間にわたるカウンセリング
は終了です。さて、いかがでしたか?」

「はい。そうですね、一番は自分のことを知ることが

できた、ということでしょうか。今まで、何となく落ち込ん

だり、何となく自分の性格を決めつけたりしていましたが、

自分をロボットに置き換えてみることで、冷静に自分を

見つめることができました


自分の心の弱さや足りないところがわかったし、決断も

行動も自分に対するイメージの問題だということも

わかりました。


中でも、自分の感情を自分でコントロールできる

いうことがわかったのは大きかったです。

これからも、どんどん自分の操縦法を練習していきたいと

思います。」


「自分のこと、好きになれそうですか?」


「そうですね。このままいろんなことにチャレンジして、

いろんな経験をしていけば好きになれるような気がします。」


「これから楽しくなりそうですか?」


「ええ、きっと。なってみせます(笑)。」


「うん!その意気です!頼もしい。」


笑顔がこぼれる。彼女の人生はこれからだ。

「それでは、本当にありがとうございました。」

そう言ってイスから立ち上がると、深々と頭を下げ、

にっこり笑った。


「いや、こちらこそありがとうございました。」

僕はドアまで彼女を送った。

そして、笑顔のまま、彼女は軽い足音を響かせながら帰っていった。

水島さん、あなたの笑顔、とてもすてきになりましたよ。

僕は心の中で、そう言った。


すっかり日も暮れて、外は一段と寒くなっているだろう。

でも、そんな寒さをものともせず、颯爽と歩いていく

彼女の姿を思い浮かべつつ、僕はデスクに戻るとスタンドの明かりを消した。



【報告書】
氏名:水島 志保子
内容:自分の元気・やる気や不安・怒り・悲しみ・寂しさを

メーターで客観的に今の状態を把握し、プラスエネルギー

の目盛をアップし、マイナスエネルギーの目盛をダウン

するにはどうしたらいいか?を考える。

自分の中のプラスエネルギーを出して補給し、マイナス

エネルギーを出す。