「ぼくは生まれつきのスランプ」と誰かが書いていた。
「えっ?生まれつきの?!」と言いたくなったけど、自分もそうかもしれないとも思った。
台風のまさに強風域にいるのに、外は土砂降りなのに、まちづくりのメンバーで集まった。
弟に「こんなときに外に出るなんて、バカじゃないの」と言われたけど、みんなちゃんと来ていた。
こんなときでも集まるのにはワケがある。
例の過密スケジュールで、熱い大学生のKくんは、いまだにスライドができていないのだ。
「時間がなくてできてないんです。」
「うまく自分の中で落とし込めていなくて。」
「寝ずにやったんですけど…。」
いろんな理由を並べて、かれこれ3回も期限を過ぎている。
そのたびにKくんは信頼を100ずつ失っている。
これほど目の前で信頼を失っていく人を、私は見たことがない。
期待されるほどの能力を持っている人ほど、信頼を失うときのダメージは大きい。
「みんなの顔を見て、熱を感じながら話したいです!」というスライドが進まないKくんの願いのもと、私たちは集まった。
別にzoomとかでもいいじゃない!と思うかもしれないが、Kくん以外のメンバーはzoom顔出しNG(?)なのだ。
さっそく話し合いを始めたが、せっかく集まったのに気づいたらKくんひとりの場になっていた。
一人でテンポよく進めてくれるならまだいい。
しかし、Kくんは一人でひたすらぐるぐる思考を繰り返していた。
「うーん。ここをこうして…。あー、やっぱだめだ。うーん、どうしよう。うーん…」
「せっかく集まったんだから、みんなの意見を聞いてみたら?」とでも言ってみたらよかったのかもしれない。でも、みんな優しいので言わない(自分を除く)。
「聞いてるだけじゃつまらないでしょ。
分担して考えてみたら?」
メンターの方の助け船が出た。
おかげで私たちは優しさを保つことができた。
他の子が考えている隙を狙って私はKくんに聞いてみた。
「Kくんがスライドが進まない理由はなんですか?」
これだけは聞かなければいけないと思っていた。
Kくんは間髪入れずに答える。
「なかなか考えが落とし込めなくて。いつもはサクサク作れるんですけど、今回全然まとまらなくて。リーダーとしてのプレッシャーもあります。」
なるほど。
「でも、今日みんなの顔を見たらなんか安心して、作れるような気がしてきました!」
それはよかった!
みんながわざわざ雨に濡れてでも来た甲斐はあったのだ。
しかし、その後もKくんの様子はおかしい。
作りかけのスライドがあっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
手に握るマウスは絶えず動いていた。
全然大丈夫じゃないじゃん!
「作れる気がする」は、あくまで「気がする」だったのだ。
「Kくん、それはスランプだよ」と言いたくなった。
実は、私も現在文章が書けないスランプに陥っている。
そうは見えないかもしれないけれど。
これから大学生になろうとする高校生の目の前に、スランプ大学生2人が並んでいる。
私もスランプ。君もスランプ。
ところで、スランプに陥ったらどうすればいいのか、私はメモしていた。
「焦らず、抵抗せず、素直に従うこと。」
そうはいっても、焦らずにはいられないのが人間の性。
「ぼくは生まれつきのスランプ」と書いていたのは、荒井良二さんだった。
生まれつきのスランプならば、見方を変えればスランプのプロだ。
焦っている人間は、プロだというなら、たとえ相手がスランプのプロであっても教わりたい。
荒井さんはこう言う。
「つくりたいのにつくれないとき、やりたいのにやれないときは、何かが足りないときです。情報が足りないのか、きっかけが足りないのか、はたまたモチベーションが足りないのか。いずれにしても、なんらかの材料が足りないときなのです。
そんなときはどうするかというと、どこかから「仕入れる」しかありません。」
(荒井良二『ぼくの絵本じゃあにぃ』)
これを読んで、私は書けそうな気がしてきた(実際はもう少し長いです)。
同時に、私の「気がする」にも気づいてしまった。
Kくんと同じだ。
私もたぶん「気がする」だけなのだ。
スランプ期とは、ひたすら「気がする期」なのかもしれない。
そして、Kくんが今もぐるぐる思考している姿は、想像に難くない。
台風がスランプも吹き飛ばしてくれたらよかったのにな…。