次の日からは早速
私は窓口に座って
仕事を習い始めた
私の教育係として
教えてくれたのは
中年の男性だった
見た目とは違って
仕事がとても丁寧で
書く文字さえ繊細で
ロビーの壁画や装飾も
その人が担当していて
器用に華やかに飾った
それは私を感動させた
それまでの私のやり方は
スピード重視だったので
雑だった
男性があの丁寧さと
繊細さを出せるのには
とても衝撃を感じた
真逆の価値観の人の元で
新たな仕事を学んだことは
本当に良かったと
今でも思っている
何事においても
「最初」というのは
とても大事で
どんな考えの人と
どのような環境で
学びながら
日々を過ごし
どんな感情体験をしたかが
今後の仕事に対する
意識の初期設定となって
自分に定着し
いずれ
仕事において
どんな結果を残すかに
繋がっていく
もちろん
最初が良くなくても
途中から気づいて
諦めずに
挽回すれば
結果オーライにすることも出来るが
実際はものすごく大変だったりする
意識を変えるというのは
そんな簡単にいかないからだ
まず自分に気づくということに
気づかなければいけないからだ
そんな価値観の
崩壊を受けながら
夕方窓口業務を終えて
仕事を片付けていた時
ふと顔を上げると
先日異動したはずの
あの先輩外交員さんが
窓口の玄関に立っていた
私は驚いたが
ニヤニヤはにかむ
人懐っこい笑顔は
なぜだか私を笑わせて
私の気持ちを緩ませた
窓口の玄関は二つある
本来であれば
駐車場に近い左のドアから
入ってくるのが普通なのに
なぜか
私が座っている窓口に近い
右側のドアから入ってきた
そのドアは
あまり使われない
隣の市役所の人が
たまに入るくらい
そのうえ
異動した先から
この町まで来るには
車で二時間は掛かる
まさか・・
私に会いに来た??
と直感的に
淡い期待を抱いたが
それを見ていた
年配の上司が私に
そいつには
看護婦の彼女がいて
近々結婚するんだから
手を出すんじゃないぞ!
と言って
私に五寸釘を刺した
そうバラされた先輩は
結婚しないしない
と
私を見て
頭を振った
そして
都合が悪くなったのか
後輩に用事があったのか
私の前から立ち去った