去る5月上旬、私の不注意により、長年の相棒だった携帯電話【IS13SH】を失ってしまった。
この相棒との付き合いは長い。
2011年11月18日に発売されたこの機種は、2012年4月の時点で既に古いモデルだったが、無駄のないデザインが気に入り購入した。
ある日の入浴中に水没させ、一時は人事不省となるも、奇跡の復活。
だがやはり後遺症は残り、カメラの性能、タッチパネルの感度、電池機能が著しく低下した。
その後も階段から何度も転落させたり、もはや満身創痍の相棒だが、今日まで私の無茶な使用にも何とか耐え忍んできてくれたのだ。
そんな相棒が突然行方不明になり、私は狼狽えた。
外部から自分の番号にかけると、呼出音が虚しくこだまするばかり。
残り少ない電池を振り絞り、呼びかけに懸命に応じてくれている。
どこかで私の助けを待っているのだ。
だが、どうすることもできない。
この無力感、悔しく惨めであった。
私は断腸の思いで新しい携帯を入手したのであった。
【au安心サポートプラス】に加入していたおかげで、紛失した相棒と全く同じ機種が安価で購入でき、すぐに送られてきた。
新品ゆえに外観も綺麗でカメラの性能も万全だ。
使い方も実によく知ったものだ。
だが、メモリには本来あるべきはずのデータは何もない。
何とも言えぬ寂寥感を禁じ得なかった。
しかし過去を振り返ってばかりでは前には進めない。
何よりそれは新しい相棒にも失礼というものだ。
古人曰く【人生とは出会いと別れの繰り返し】
さらば、相棒・・・
そして6月中旬、見慣れない電話番号から連絡があった。
恐る恐る出てみると、警察の方だった。
【紛失した携帯電話が見つかった】
滅多に起きない出来事だからこそ奇跡と呼ばれるのだが、私にも小さな奇跡が起きたようだ。
携帯を届けて下さった方、警察の方、全ての方に感謝である。
この世知辛い世の中も、そうそう捨てたものではないと素直に反省。
そしてついに相棒が手元に帰ってきた。約二ヶ月ぶりの再会である。
塗装の剥げ切ったカバーで身を固めた外観。
見るも無様な携帯だが、これが私の相棒なのだ。
私の胸に何とも言えぬあたたかい思いが去来する。
実に清々しい気分である。歌でもひとつ歌いたいような良い気分だ。
私は新しいパンツをはいた正月元旦の朝のような爽やかな気分でベランダの窓を開けた。
私の視界には梅雨の陰鬱な雨空と、洗濯して取り込み忘れていたずぶ濡れの枕カバーとシーツが映った。
私は静かに窓を閉ざした。