西荻窪の隣町である吉祥寺へ、必要品の買い出しへ行った帰り、地元の西荻窪のラーメン屋で遅い昼食をとった。
思えばこれが全ての過ちの始まりであった。
食事を終え、外に出てみれば壮絶な豪雨となっていた。
空から叩きつけられるかのような雨の勢いを前に、ただ茫然と立ち尽くすばかり。
左手には買い物袋。
右手には携帯電話。
無論、傘などはない。
この雨の中を強行突破すれば、全身ずぶ濡れは免れない。
現在位置(駅南口・上り方面寄り)から西荻窪駅を中心に、反対側にある我がサロン(駅北口・下り方面寄り)まで帰らねばならない。
ゆえに【傘を買う】という選択肢は最初から存在しない。
私は多少の被害は覚悟の上で、アーケード等を利用して雨を避けながら帰ることに決めた。
西荻窪の西友は反対側へと通り抜けられる縦長の構造になっている。
なんという屈辱感。なんという敗北感。
私の心は今まさに暗黒面に囚われようとしていた。
だがしかし。
何故かこのとき、小学5年生の頃、公園で夕方まで友人たちと水風船をぶつけ合い、全身水浸しのまま自転車で帰宅した記憶が唐突に蘇ってきたのだった。
どちらも惨めなことに変わりはないのだが、当時は水に濡れることなど厭わずに無邪気に笑い、この楽しい時間がいつまでも続いてほしいとい願いつつも、18:00に流れる【夕べの音楽】で現実に帰り、充実感と一抹の寂しさを胸に抱きながら帰路についたものだ。
※現在は16:30、17:30に流れるようですが、当時は17:00、18:00に流れていました。
あの頃と今では何が違う?
大人になり色々変わったものはあるが、私の本質は何も変わってはいない。
じゃあ、別に雨に濡れたって構わないんじゃないか?
そう思うと先ほどまでの負の感情は雲散霧消し、どこか懐かしく、楽しい気分になってきた。
その中から私はひとり豪雨の中へ踏み出した。
その悠然たる足取り、まさに威風堂々。決して走ったり、早歩きもしない。
かのSting氏も歌っているが、紳士は決して走らない。そう、雨が降っても。
雨の中を歩く私の脳内では名曲【Englishman in New York】が流れる。
もはや下着まで水没状態だった。
洗濯機から脱水せず取り出したような状態のハーフパンツのポケットから中身を出す。