じいちゃんへの想いと、武家丸君との約束 | 小次郎 ボクシングチャンピオンへの道

小次郎 ボクシングチャンピオンへの道

フルコンタクト空手で日本一を目指してたけど叶わなかったんで高校からボクシングでチャンピオンを目指す物語



大会当日朝、いつものご当地ロードワークで立ち寄った秋田の名所武家屋敷で小次郎は、看板犬の秋田犬、武家丸君とある約束を交わしていた。

「今日絶対優勝して、初の東北チャンピオンになったら、帰りもっかい必ず会いに来るからね」

犬好きの息子は、武家丸君が大のお気に入り。
可愛いね、やっぱまだ小学生だな。

先週大会を辞退したうっぷんを晴らすべく、
そして今日の為に小次郎は、いつも当日朝まで苦戦するはずの減量を前日の内にクリアし、
体調、コンディション、モチベーション、
全てにおいて完璧な状態で大会当日を迎えることが出来た。

成長したもんだ。

そして何より、小次郎には悲願の東北チャンピオンと言う指命が待っている。
例え全日本の切符を手にしたとて、
地元東北地区でチャンピオンにならなければ、
全日本選手達相手に闘えるわけがない。

空手を始めて今日でおよそ丸3年。

そろそろ東北の頂点になる時だろ?

それから、
わたしは大会前日、息子にあるお願いをした。
それはわたしの親父が、小次郎からしたらじいちゃんだね、10年近く前から病気を患っており、
来月また入院する事が決まった。
親父も歳だし、今度ばかりは流石にわたしも心配で、息子には事情を説明していた。

そこで今回だけはと言う条件付きで、小次郎にお願いしたのだった。
じいちゃんを元気にする為に、
俺から最初で最後のお願い、もう2度と頼まないから、
今回だけはパパの父ちゃんの為に、
東北チャンピオンのトロフィーを、じいちゃんにお土産で持ち帰ってほしい。

わたしも何言ってんだろうって思いながら息子に頼んでしまったけど、孫が大好きな親父だからこそ、元気になるには小次郎が頑張ってる姿見せるのが一番の薬かなって思ってしまい、
そしたら息子も、
「じいちゃん元気にする為にもだけど、
パパのパパだから、だからパパの為に今回は、
必ず東北チャンピオンになるから安心して見てて」
って言ってくれた。
ありがとなコジ、その気持ちだけで充分だ。

でも親父、小次郎は約束は必ず守る奴だぞ。
きっと夢は叶うさ。

背負わせたつもりはないんだけど、
ただ、自分以外の誰かの為に闘うって、
どんなモチベーションになるんだろっても思い、
試した訳じゃなく、
本気でお願いしてしまった。

じいちゃんへの想いと、武家丸君との約束の為に、小次郎は1回戦を迎えた。

頑張れ、小次郎。

今日の小次郎はハグ同様、気合いが前に出過ぎる程充ちていて、
今まで試合をしてきた中で、一番強い日だった。



技のキレ、スピード、パワー、
どれをとっても文句の付け所が無く、
1回戦目だと言うのに、目頭が熱くなってしまった。



技有り2本合わせ一本勝ち、
圧勝スタートだった。

続く2回戦、


打たれ強い選手で、前へ前へ向かってくるのに対し、焦らず冷静に的確に打ち込み、
自分の持つ全ての技を繰り出す小次郎。


初戦に続きこちらも圧勝。
キチハグの時みたく、心臓はバクバクですよわたし。

そして準々決勝、
パンチを主とする相手で、前の試合では殴りっぱなしと言えるくらいハードパンチャーだった為、
わたしは少し不安になり、試合前にどうするつもり?と耳打ちすると小次郎は、
「わかってる、大丈夫」
と告げ、試合に向かうと、


またまた技有り2発を決めて、
あっという間に一本勝ちして帰ってきた。


強い。
ヤバイな。

だが油断は出来ない。
準決勝の相手は、
今大会軽量級一番の優勝候補ナッチャン。
先日の白蓮東北大会でも優勝し、
低学年からチャンピオンのリュウ君と肩を並べる白蓮のトップファイター。
意外にも小次郎とは初対戦で、わたしはこの子との対決をいつも熱望していた。

スピードと間合い潰し、パンチの速さスタミナなど、相当場数を踏んでいる動きで、
自分より大きな相手にも屈する事無く、
3月のJkjo東北予選ではハグを破り、
小次郎が苦戦しているハイキックのマサキ君の前にも常に立ちはだかり、東北大会の軽量級で必ず彼は優勝してきた。

さぁて、どう闘うか。
身長差は小次郎が断然上だが、打たれ強いタフさもある為、打ち合いになった時恐らく手数勝負になればこちらが不利だ。
唯一引っ掛かるとすれば、小次郎は相手の土俵で闘う癖があるので、速い攻撃に対応しようと付き合ってしまいガス欠になる可能性。
これは互いの攻略戦になるのか、はたまたどちらかが意外と得意なタイプなのか、こればかりはやってみなきゃわからない。

わたしは試合前、戦略は言わなかった。
「決勝でハグ待ってる。あと今日の優勝、じいちゃんも待ってるぞ」ってだけ耳打ちした。
「わかってる」
小次郎にスイッチが入った。

そんでは準決勝の初対決、
軽量級トップファイターとの事実上決勝戦。
始まり~

お互いに間合い戦からスタート。
向こうも小次郎のデータはあるだろうけど、やはり初対決だけにどうしようか攻めあぐんでいる。
そして打ち合い開始。
相手のパンチが速い速い。
ナッチャンの攻撃に小次郎が対応しきれていない。ついていくのがやっとな感じで、
予想通りこのまま行けば消耗戦になり、デカイ小次郎か不利になると思ったわたしは、

「コジ!相手のペースに併せないで自分の闘い方しろ!!!」

思わず全力で叫んだ。

すると小次郎の動きがピタッと止まった。

冷静さを取り戻すと、直ぐに本来の闘い方に戻したのだった。
わたしは唖然。

小さい子対策の為に、高速ローキックと膝蹴り、ボディアッパー、ガードが下がったところを上段前蹴りと、
この反復練習を1週間死に物狂いでやらせた。
それをあいつは今冷静に練習通り出していた。


こうなると速いパンチと間合い潰しは効力を失い、懐に入ってこようとすれば膝蹴り、
入られたらインロー、相手がバランスを崩せば顔面蹴り、もはや教科書通りの闘い方だった。


小次郎今日やっぱり強い。
今日と言うか、本当に強くなってる。

そして判定へ。
上段前蹴りは旗は挙がるも技有りにはならなかったから、どうだろ?
引き分け延長戦突入。

延長戦になっても小次郎はスタンスを崩さず、


ローキックで3度も転ばせ、技有りを取れる寸前まで追い詰めた。


そしてラスト20秒。
今回最後に小次郎が特訓したのは、
ラスト20秒のパンチラッシュだった。
どうしてもラッシュ時、疲れを誤魔化す蹴りや膝を入れる事でコンマ何秒時間をロスしてしまう為、判定が微妙な時、ラストは蹴りを打つなと教えていたのだ。
パンチだけパンチだけ!!
わたしは叫んだ。

ここで試合終了。

判定は3対2で小次郎の勝利。
初対決ながら、軽量級トップファイターを見事に撃破した瞬間だった。
相手を労いに行こうとしたが、既に向こうではハグが決勝戦を待っており、そんな余裕も無く、
去年の8月以来、同門対決はこれで公式戦は3度目、

小次郎 VS ハグ

わたしの隠れ教え子達2人による3度目の決勝戦が始まった。
しかも今回は本気な東北軽量級No.1を決める一戦。そりゃ感激ですよ。

対戦成績は小次郎の2勝0敗。
ハグは何としても勝ちたい。
小次郎も今日は負けるわけにはいかない。
2人の闘志が伝わってきたわたしは、
ハグの所にダッシュで行き声をかけた。

「コジ倒せんのはお前だけだよな?
コジの弱点知ってるのもお前だけだから、
今日は必ず倒せ!」

大きくうなずくハグ。

今度は小次郎の所にダッシュで声をかけた。

「今日のハグは気合い入ってるから、
油断だけはしないように」

大きくうなずく小次郎。

忙しいんだよ全く!!

ではでは今度こそ本気の東北軽量級チャンピオン決定戦、バカ小次郎アホハグ、
決勝戦開始!!


判定!
引き分け!
延長!
判定!
小次郎勝利!
小次郎優勝!(笑)(笑)(笑)
ハグ準優勝!(笑)(笑)(笑)(笑)
試合内容割愛!(笑)
載せるまでもない!(笑)(笑)

何千回やったんだろうな今までお前達の組手。
見飽きている、、、、。

試合中、相手道場がいないため勿論誰も応援していないので、
静寂の中わたしの怒声だけが響き渡り、
終始説教染みたわたしのセコンドに、決勝戦にも関わらず更に周りはシ~ン。。。。

こうして小次郎とハグのライバル対決は、
またしても小次郎に軍配が挙がった。