真っ白な天井をボンヤリと見上げながら、カズヤは何度目かのため息をついた。
自分の身に起こったことについては、これまで何度も繰り返された検査と、医者か
それを受け入れるしかないという現状は、まだ二十歳を過ぎたばかりのカズヤにと
これからしばらくの間だけ、気持ちの重さも、痛みも、つらさも忘れなければなら
……そうしないと、彼女が悲しむから。
「ウソつくの、苦手なんだよな……」
苦笑しながら独りごちる。しかも、これからウソをつかねばならない相手は、物心
でも、ウソをつき通さなければならない。
それが、彼女のため。
自分が彼女にできる、最後の愛の形。
彼女の記憶に残る自分は、泣き顔でも、苦悩する顔でもなく、笑顔でなくては。
……だから。
消毒薬の匂いのするベッドに横たわり、ひたすら天井を見上げながら、カズヤは笑
「カズピー、入院ってどういうことなの!?」
パタパタと大きな足音を立てて、リョウコがベッドに駆け寄ってきた。
「リョウコ、ここは病院なんだから。他の患者さんの迷惑になるから、もっと静かに
予想以上に元気な声が出せた。そのことに自分でも少し驚きながら、カズヤはニッ
「バカ! でも、そんなことが言えるぐらいなら、まだ大丈夫なの?」
大鍋いっぱいの不安と心配を三日ほど煮込んで、凝縮させたエキスを音声化したら
「大丈夫に決まってるじゃない。リョウコは昔から、心配性すぎるんだよ」
「だって……だって……っ!」
「あーもう、いきなりメソメソしない。って、お見舞いにきた人が入院患者に慰めら
ゆっくりと右手を上げ、リョウコの手にふれた。
「……もう!」
リョウコの柔らかな手が、そっと自分の手を包み込んでくる。
「リョウコ、オレは大丈夫だから。すぐに退院して、またたくさんご飯作ってあげる
「わ……分かった。でも、その代わり、約束守ってくれなかったら許さないんだから
「分かってる。オレがこれまで、リョウコとの約束を破ったことがあった?」
「うん、そうね。なかったよね。カズピーは真面目だもんね」
「だから、今回も大丈夫。安心して」
自分の言葉は、本当に彼女を安心させているだろうか。まったく自信はなかったが
「あ、いけない。そろそろ帰らないと、バイトの時間に間に合わなくなっちゃう」
ふとリョウコは腕時計に目を落とし、慌てた様子で立ち上がった。
「長居しちゃってゴメンね、カズピー。また来るね。ゆっくり休んで、早く元気にな
「ありがとう」
精いっぱいの笑顔で、リョウコを見送る。そして、別れ際の彼女の笑顔を、しっか
……ゴメンね。最後にウソついちゃって。
ゆっくり息を吸うと、言葉にできない謝罪をため息に乗せて吐き出した。
まいったなぁ……。ほんのちょっとおしゃべりしただけで、こんなに疲れるなんて
指先は、しびれてすっかり硬直していた。口の中も、高熱に浮かされている時のよ
よくこの状態で、普通におしゃべりができたなぁ。我ながら感心するよ。でも、も
ゴメンね、リョウコ。
オレ……もう、リョウコに料理を作ってあげること、できないんだ。
これまでずっと書き溜めてきたレシピノート、全部あげるから許してね。
オレに残された時間は、あと、どれぐらいだろう。
ゴメンね、リョウコ……。
本作は某コミュニティサイト内で投稿されたお題をもとに執筆したものです。
本作のお題は「入院、紫、おやすみなさい」でした。