短編恋愛小説「私は、冬が嫌い」 | 春風ヒロの短編小説劇場

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 私は、冬が嫌いだ。

 冬は、言うまでもなく寒い。
 寒いと、朝、起きるのがおっくうになるし、外出するのも嫌になる。
 厚着をすれば少しはマシだと分かってるけど、うら若き乙女としては、オシャレを楽しみたい。ブクブクと着ぶくれた姿で外出するのは、やっぱり恥ずかしい。
 ヒートテックの上からカイロを貼るのは、寒さ対策としては上出来だ。でも、限られたお小遣いの中でやりくりしている身では、毎日何個もカイロを消費するわけにいかない。結局、外出しようと思ったら、寒いのをガマンするか、着ぶくれするしかないワケ。

 空気が乾燥するから、肌荒れしやすいっていうのも嫌だ。まだ10代なんだからそこまでスキンケアに気を使わなくても大丈夫とはいえ、油断すると、頬がカサカサしちゃう。そうそう、手や足の指が霜焼けしちゃうのも困りものだ。
 冬は風邪や、インフルエンザが流行するのも嫌だ。最近は熱中症で倒れる人も増えてるみたいだけど、それでも夏の暑さで死ぬ人と、冬の寒さで死ぬ人を比べたら、圧倒的に冬のほうが多いだろうと思う。

 冬は一日が短いのも嫌だ。日が沈むのが早いから、夕方になったと思ったら、あっという間に真っ暗になる。学校が終わって、ほんのちょっと寄り道してカラオケしたり、ファミレスでジュースを飲んだりしてただけで、気がつけばすっかり深夜のような雰囲気になる。
 天気の悪い日が多いのも憂鬱。さすがに雪かきが必要なほどの大雪が降ることはないけど、それでも曇りの日が続いて、ピューピュー冷たい北風が吹いていると、気持ちまでドンヨリと暗く、濁って、冷えきってしまうように思う。

「不快指数」って言葉がある。主に、夏の蒸し暑さを数値化するために使われてる。
 夏、不快指数が高くて、「あっついなー、もう!」とイライラする人は多い。
 だけど、冬、「さっみーなチクショー!」と怒ってる人には、会ったことがない。
 むしろ、寒いと人は泣きたくなるんじゃないだろうか。
 寒さには、身を縮こまらせて「寒いよう、寒いよう」とメソメソするイメージのほうが似合っている気がする。

 まあ、そんなわけで、私は冬が嫌いだ。
 ううん、正確に言うと、冬が嫌いだった。

 私は最近、少しだけ冬が好きになった。
 あなたと付き合い始めたから。
 二人で、手をつないで歩くことが当たり前になったから。
「手が冷たいから」という理由で、あなたと思う存分くっついて歩けるから。
 寒いのは相変わらず苦手だけど、二人で一緒にいるときは、ほんの少しだけ寒さを忘れていられる。
 こんなに温かくて幸せな日々が自分にも来るなんて、思いもしなかった。
 二人なら、どんなに寒い冬でも乗り越えていける、と思う。

 鏡の向こうで、見慣れた顔がニヘラ、と笑う。
 カレのことを考えると、つい頬が緩んでだらしない顔になってしまう。
 いかんいかん、と顔を引き締め、もう一度、前髪チェック。うん、準備オッケー。
 さあ、そろそろ出かけよう。
 カレを待たせないために、ね。