ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
広島大学病院 乳腺外科の小林です。
アメリカのニューヨーク大学における研究結果ですが、乳がん患者さんの治療がコロナの感染状況にどのような影響を及ぼすのかという報告が最近ありました。
昨年の世界におけるパンデミックの初期に乳がん治療が個人の免疫システムを弱めてコロナウイルスに感染しやすかったり、死亡リスクが高くなるのではないかということが懸念されていました。
2020年2月から5月の間でニューヨーク市の乳がん治療をうけている3000人の女性を含んだ研究結果は、64人(2%)がコロナ感染症にかかり、そのうち10人がCOVID-19により亡くなられました。
研究者たちは2020人の医療カルテを調査して、乳がんの抗がん剤治療はコロナ感染症リスクを高めることにはなっていないと結論づけました。
それまでの研究と一致し、年齢が高くなるとコロナ感染症による死亡リスクがより高くなっていました。
これは昨年の研究なので、現在市中感染として置き換わってきている新型コロナウイルスのさまざまな変異型に関してはっきりはまだ分かっていません。
ニューヨーク大学のSylvia Adams教授は、治療を受けられる方はマスクをつけて他者との距離をとること(ソーシャル・ディスタンシング)のような意味のある予防対策をとり続けるかぎり、(乳がん治療がCOVIDに影響を与えないことに関して)信用して乳がんの治療を続けられて良いでしょう、と述べられています。
この研究結果は2021年6月に催されたASCO(American Society of Clinical Oncology)という国際学会で発表されました。
現在、最初はインドで新たな変異型として発見されたデルタ株とデルタプラス株という高い感染力やワクチン効果の低減、重症化リスクが従来型より高いことが報告されている変異ウイルスが徐々に本邦においても増加してきています。
現在デルタプラス変異は世界における11か国で出現しており、日本以外にもインド、アメリカ、イギリス、ロシア、中国、スイス、ポルトガル、ポーランド、ネパール、トルコですでに報告されています。
この新型コロナウイルスの主な感染経路である空気感染を支持するように、中国ではわずか14秒で伝播したという疫学調査の結果もあります。その他、オーストラリアにおける調査ではデルタ株は5~10秒以内で感染、すれ違っただけで感染、年齢は関係なく全世代が感染し子供の感染者が多いとつい最近発表されました。
緊急事態宣言、まん延防止等重点措置(まん防)が解除された後も、これまでの当院乳腺外科の他の先生のブログ内にも書かれていますようにワクチン接種を完了されたとしても、ワクチンは重症化リスクを下げますが、ウイルスに感染しない・ほかの人に感染させることはない、という訳ではありませんので、引き続きマスクをつけて他者との距離をとること(ソーシャル・ディスタンシング)のような意味のある予防対策は必要です。
デルタ株について少し追記してしまいましたが、乳がんの治療と従来株でのコロナ感染症に関しては上記のように明らかな関連は言われていませんので、医師や看護師の皆さまとしっかり話し合って病状を把握された上で、ご自身にとって良い治療の選択を行っていっていただきたいと願っています。
それでは皆さま、穏やかな一日をお過ごしくださいませ。