2012年2月7日朝日新聞 池澤夏樹氏の終わりと始まり「子供を産ませない社会」 より
日本の人口は縄文期に1000年の間に3分の1まで減少した。気候の寒冷化と大陸から来た疫病が原因だと言われている。
江戸時代には村で余った若年層を都会へ出稼ぎに出した。その3分の一が行った先で死んで村には帰ってこなかった。
先進国では、自分の安楽を求めるために子孫を残すことをやめた。人口が減少するのは当然である。
しかし、社会として政治として、人口減少に介入することは可能である。フランスがその例である。
2010年のフランスの出生率は2.00で日本の1.39より高い。フランスでは出産と育児に対するケアが厚い。
フランスでは女性は出産と育児のために職場を離れるということがほとんどない。さまざまな手当てと負担軽減措置があり、保育園などの支援の制度が完備している。
さらに結婚しないままの同棲が多いことも出産を促しているかもしれない。日本式にいう婚外子の率は5割に近い。子を産む産まないはあくまで個人が決める。社会は全力を挙げて手伝う。
日本の社会は子供を産ませないようにしてきた。今もって保育園の数は足りない。経営者たちは勤務と育児の両立など論外という。
核戦争がなく、原発の事故がなく、食糧危機がなくても、われわれは個々のわがままなふるまいのゆえに未来を失ってしまった。
やがて静かに地上最後の日本人がいなくなる日が来る。