ひゅうが型護衛艦【海上自衛隊小型ヘリ空母】Ⅱ【中半】
対潜・対水上戦
対潜戦闘システムの中核となるのが、OQQ-21ソナー・システムで、これは、新開発の大型艦首装備ソナーと対潜情報処理装置、水中攻撃指揮装置を統合したものである。ソナーは試験艦「あすか」で試験されていたもので、ドーム長40メートル強という長大なソナー・ドームの前部には従来と同様の円筒形ソナー・アレイを備え、後方の両側面にフランク・アレイを装備する。従来の機種に比べて、探知距離と浅海域での探知精度が向上している。このように自艦装備ソナーの性能が向上したこともあって、航空運用能力を確保するために戦術曳航ソナーは装備しない。
Mk.41 mod.22 VLS
対空用のESSM(発展型シースパロー)、対潜水艦用の07式垂直発射魚雷投射ロケット(新アスロック)が収容される
自艦装備の対潜火力としては、Mk.41 VLSより発射するVLA(垂直発射式アスロック)対潜ミサイルと、舷側の68式3連装短魚雷発射管HOS-303がある。搭載する16セルのMk.41 VLSのうち、12セルがVLAに割り振られる。また、将来的には、新開発の07式垂直発射魚雷投射ロケット(新アスロック)の運用も予定されている。HOS-303 3連装短魚雷発射管は、従来より使用されてきた68式3連装短魚雷発射管シリーズの最新版で、新型の97式短魚雷の運用が可能となっている。
また、搭載機のうち、SH-60KはAGM-114M ヘルファイアII空対艦ミサイルが装備でき、砲や対艦ミサイルを持たないひゅうが型における間接的な対水上火力となる[脚注 7]。
洋上でのテロ攻撃に対処するため、合計で7基の12.7mm重機関銃M2を搭載する。近接防空用の高性能20mm機関砲も、光学照準機能を持つブロック1Bと呼ばれるバージョンを採用したことで、小型・高速の水上脅威が接近してきた場合に対処できる。
追加装備
インドネシア国際緊急援助活動の教訓を踏まえ、平成18年度防衛予算にひゅうが型への機能の付加が盛り込まれた。概算要求の概要には「煙突の間の洋上補給装置、格納庫内の中間フラットと移動用装置」が記載されていたが、予算の概要には「後方の煙突のヘリ・リンク用アンテナを一基追加、格納庫内の中間フラットと移動用装置」が記載されている[13]。
戦争以外の軍事作戦
甲板上で負傷者の救出訓練を行う隊員
マルチハザード化とグローバル化を背景に、近年、世界的に戦争以外の軍事作戦(MOOTW)のニーズが増大しているが、本型は、これらの作戦においても非常に有効であると期待されている。特に自然災害の頻度が高い日本においては、災害派遣における人道支援任務への応用が期待されている。
全通甲板などの設備により、航空機の運用性が向上していることから、艦載用に設計されていない陸上自衛隊機や、消防防災ヘリコプターなど民間機の離着艦も可能と見られている[14]。この性能を生かして、大規模災害時の海上基地としての機能も盛り込まれており、海上自衛隊が保有するMCH-101掃海・輸送ヘリコプターを搭載しての救援物資輸送や、救難飛行隊のUH-60Jによる傷病者の収容、消防や警察、海上保安庁のヘリコプターに対する管制・補給支援が計画されている。また、上記の多目的室など自治体関係者による合同対策本部を収容できる設備が用意されているほか、後部エレベーター・スペースの直前には集中治療室を含む病床8床や手術室1床などの医療設備を持つ[2]。また、弾薬用エレベータはストレッチャーと付添員を乗せられる大きさとなっているほか、飛行甲板から初療室までの経路はバリアフリー化されており、傷病者をストレッチャーに載せたままで迅速に移送できるよう配慮されている[15]。
2009年9月5日には、横浜市が横浜港の大さん橋ふ頭に停泊した「ひゅうが」を拠点に5機関合同防災訓練を実施、陸上自衛隊(UH-1H/J)、海上保安庁(AS332)、神奈川県警察(AS365)、横浜市安全管理局(当時)(AS365)によるヘリコプター発着艦訓練、海上自衛隊のSH-60Kによる負傷者搬送、収容訓練が行われた。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による東日本大震災に対し、「ひゅうが」は被災地への物資輸送および被災者の入浴支援の為、16日午後横須賀基地より三陸海岸沖に進出した。SH-60K哨戒ヘリコプター4機による支援活動を行い、ヘリコプターを生かした物資搬送能力は、人道支援にその実力を見せた。同年同月、同型2番艦「いせ」が竣工し、「いせ」は同31日に定係港である呉基地へと回航された。
同型艦
2隻のはるな型(43/45DDH)を代替する為、「ひゅうが」と「いせ」の2隻のひゅうが型が建造されている。どちらの艦名も大日本帝国海軍の伊勢型戦艦と同名である。艦番号は当初、建造番号2405号艦(ひゅうが)にDDH-145が、建造番号2406号艦(いせ)にDDH-146が与えられていたが、後にそれぞれ、建造番号2319号艦と艦番号DDH-181、 建造番号2320号艦と艦番号DDH-182に変更されている。はるな型としらね型(50DDH)の艦番号は141から144であったので、ひゅうが型の艦番号は従来型DDHと連続していないことになる。
ひゅうが型がはるな型を代替する数年後には、しらね型2隻の退役が見込まれており、これを代替するいずも型2隻の建造予算が計上済みである。
艦番号 | 艦名 | 建造 | 起工 | 進水 | 竣工 | 所属 |
---|---|---|---|---|---|---|
DDH-181 | ひゅうが | アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド 横浜工場 |
2006年 (平成18年) 5月30日 |
2007年 (平成19年) 8月23日 |
2009年 (平成21年) 3月18日 |
第3護衛隊群第3護衛隊 (舞鶴基地) |
DDH-182 | いせ | 2008年 (平成20年) 5月30日 |
2009年 (平成21年) 8月21日 |
2011年 (平成23年) 3月16日 |
第2護衛隊群第2護衛隊 (佐世保基地) |
登場作品
アニメ
-
- 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
- ヴィレ所属艦艇として登場。詳細な描写ではないが8隻程度が同時に描写される。
- 『機動戦士ガンダムUC』
- 4話でヒマラヤ級対潜空母として登場した艦の艦橋構造物がひゅうが型のものに酷似している。全体の艦容はキエフ級航空母艦に近い。シャンブロに撃沈される。
漫画
小説
-
- 『かんづかさ参〜朱に染まる空〜』
- 海上自衛隊第一護衛艦隊旗艦「ひゅうが」として登場。千葉県夷隅市・勝浦市付近に位置する架空都市・夜刀浦攻略のため、派遣された第一護衛艦隊群と共に海神ダゴンと戦う。
- 『日中尖閣戦争』
- 「南方急行作戦」の旗艦として登場する。
書籍
-
- 『ACE COMBAT ASSAULT HORIZON マスターファイル ASF-X震電II』
- ゲーム本編には登場しないが、関連書籍の本書にSTOVL空母に改造された「ひゅうが改型DDV」として登場。
ゲーム
-
- 『大戦略』シリーズ
- 主に『現代大戦略』シリーズにおいて日本ユニットとして登場。『現代大戦略2003』にて「新型DDH」として初登場し、『現代大戦略2008』にて初めて「ひゅうが」という実名で登場した。また、それ以前にもひゅうが型をモデルとした艦が『大戦略マスターコンバット2』には「ひりゅう」、『現代大戦略2001』及び『現代大戦略2002』には「あかぎ」という名称で登場しているが、双方共に実際にひゅうが型が就役する以前の作品であるため、実際のひゅうが型とは排水量が異なる、VTOL機が搭載可能になっている等の相違点がある。
模型
『1/700ウォーターラインシリーズ 海上自衛隊ヘリコプター搭載護衛艦 ひゅうが』(青島文化教材社)ひゅうが型の初の模型化されたプラモデル。
『1/700ウォーターラインシリーズ 海上自衛隊ヘリコプター搭載護衛艦 いせ 就航時』(青島文化教材社)
「いせ」の新造時の状態を模型化したキット。「ひゅうが」との識別点がモデル化されているほか、同スケールのF-35・シーハリアーを同封。
『1/700ウォーターラインシリーズ ヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが 離島防衛作戦』(青島文化教材社)
上記の『ひゅうが』のキットに、陸上自衛隊のAH-1S・AH-64D・OH-1と、アメリカ海兵隊のAAV7・V-22オスプレイの同スケールキットを同封したバージョン。ボックスアートで、中国人民解放軍海軍の空母「遼寧」に似た軍艦を撃沈しているとして、中国メディアにも取り上げられた[16]。
『1/700 海上自衛隊ヘリコプター搭載護衛艦 DDH-181 ひゅうが』(ピットロード)
フルハルモデル版とウォーターライン版がある。
『1/350 海上自衛隊 護衛艦ひゅうが』(フジミ模型)
飾り台付のフルハルモデル。
脚注
^ 海上自衛隊の命名基準における地方名の範疇として旧国名が採用された。既存の自衛隊艦船にも輸送艦「さつま」「おおすみ」、補給艦「さがみ」「おうみ」など旧国名を冠したものがあるが、これらの艦名はいずれも半島、湖、湾、川といった地名、名所旧跡名に由来している。「おうみ」は近江国そのものではなく琵琶湖の古名から取られたものであるため、直接的に旧国名が用いられた例はひゅうが型が最初となる
^ 平成21年4月11日(土)に、海上自衛隊横須賀地方総監部で行われた一般公開で配布された海上自衛隊のパンフレットには13,500tと記載されている
^ IHIがDDH-181進水記念に配布した絵葉書には乗員約490名、就役記念に配布した絵葉書には乗員数約510名と記載されている一方、海上自衛隊のサイトと朝雲新聞の2009年3月26日付記事には、乗員約340名と記載されている。また、第1護衛隊群のサイトと、平成21年4月11日(土)に海上自衛隊横須賀地方総監部で行われた一般公開で配布された海上自衛隊のパンフレットには乗員約360名と記載されている。どれも航空要員や司令部要員を含めた物であるかは明記されていない
^ 平成21年4月11日(土)に、海上自衛隊横須賀地方総監部で行われた一般公開で配布された海上自衛隊のパンフレットには、 搭載ヘリコプターとして、SH-60K、SH-60J、MH-53E、MCH-101の4種類が記載されている
^ 旧海軍の空母と比較すると「龍驤」と同等
^ この種の限定的艦隊防空は、僚艦防空(Local Area Defense)とも呼ばれる。同様にESSMとイージスシステムを組み合わせて搭載しているノルウェーのフリチョフ・ナンセン級フリゲートについても同様の言及がされている
^ アメリカ海軍ではシースパローによる艦艇の攻撃実験に成功しているが、日本のFCS-2ではモノパルス誘導のRIM-7M対応化の際に対艦攻撃能力は持たない。FCS-3については不明
参考文献
^ 関賢太郎 (2015年10月24日). “来年にも4隻体制に 導入進む日本の空母、その現状と課題”. ミリタリー/乗り物ニュース. 2016年12月17日閲覧。
^ a b c d e f 「船体 (特集・最新鋭DDH「ひゅうが」) - (最新鋭DDH「ひゅうが」のすべて)」、『世界の艦船』第710号、海人社、2009年8月、 76-83頁、 NAID 40016731918。
^ 香田洋二「「ひゅうが」への道 海自ヘリコプター運用艦の歩み (特集・最新鋭DDH「ひゅうが」)」、『世界の艦船』第710号、2009年8月、 92-99頁、 NAID 40016731921。
^ 学研社歴史群像シリーズ『最新海洋兵器図鑑』
^ a b c 「機関 (特集・最新鋭DDH「ひゅうが」) - (最新鋭DDH「ひゅうが」のすべて)」、『世界の艦船』第710号、2009年8月、 84-87頁、 NAID 40016731919。
^ a b 東郷行紀「「ひゅうが」に見る最新護衛艦のデジタル化 (特集・最新鋭DDH「ひゅうが」)」、『世界の艦船』第710号、海人社、2009年8月、 100-105頁、 NAID 40016731922。
^ 東郷行紀「陸海自衛隊のソフトウェア無線機」、『世界の艦船』第793号、海人社、2014年3月、 110-111頁。
^ 「ウエポン・システム (特集・最新鋭DDH「ひゅうが」) - (最新鋭DDH「ひゅうが」のすべて)」、『世界の艦船』第710号、海人社、2009年8月、 88-91頁、 NAID 40016731920。
^ a b 「平成の軽空母「16DDH」--起工まであと半年 その最新情報 (特集・明日の自衛艦)」、『世界の艦船』第650号、海人社、2005年11月、 76-83頁、 NAID 40006903906。
^ 「「ひゅうが」と「独島」- 日韓の新造「軽空母」を比較する (特集 現代の軽空母)」、『世界の艦船』第682号、2007年11月、 82-87頁、 NAID 40015635562。
^ 菊池雅之「ドーン・ブリッツ2013 米西海岸からの現地フォトリポート」、『航空ファン』第729号、文林堂、2013年9月、 40-47頁。
^ 東郷行紀「1. 護衛艦 (注目の新艦載兵器)」、『世界の艦船』第778号、2013年5月、 76-85頁。
^ 防衛省 予算等の概要 平成18年度 防衛予算の概要(PDF:12MB)、防衛力整備と概算要求の概要(PDF:2.6MB)
^ 野木恵一「軽空母「ひゅうが」の登場と海自艦隊航空 (特集 海上自衛隊の艦隊航空)」、『世界の艦船』、海人社、2008年10月、 96-99頁、 NAID 40016204592。
^ 岡部いさく「「ひゅうが」はSTOVL空母になれるのか?」、『航空ファン』、文林堂、2009年9月、 67-71頁、 NAID 40016754003。
^ 中国網 (2013年5月10日). “釣魚島海域の激戦で「遼寧艦」撃沈を妄想する日メディア”. 2013年8月27日閲覧。
関連項目
- 海上自衛隊の航空母艦建造構想
- 軽空母 / ヘリ空母 / 対潜空母
- 航空戦艦 / 戦艦「伊勢」 / 戦艦「日向」
- 揚陸指揮艦 / ブルー・リッジ級揚陸指揮艦
- モスクワ級ヘリコプター巡洋艦
- 出光丸(竣工時には世界最大であった石油タンカー)
- ちきゅう - 日本の公的機関が所有する日本最大の船舶(海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船)
- しきしま - 海上保安庁の所有する世界最大の巡視船(ヘリ搭載型大型巡視船(PLH)
外部リンク
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ウィキメディア・コモンズには、ひゅうが型護衛艦に関連するメディアがあります。 |
- 海上自衛隊 「ひゅうが」型護衛艦
- 第1護衛隊群 第1護衛隊「ひゅうが」
- 防衛省 平成15年度 事前の事業評価 政策評価書一覧
- IHIマリンユナイテッド 製品紹介:艦艇
- 朝雲新聞社
- 世界の艦船
- 海上自衛隊次世代艦
- GlobalSecurity.org
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